• マニラを訪れる人たち

「ジョーさんの国籍はどっちなんですか」

「もちろん日本ですよ。13G(サーティーンジー)っていうフィリピンの永住ビザを持っています」

フィリピン国籍の家族を持つ人たちに発給される種類のビザらしい。

「今待っているお客さんの会社なんですけど、フィリピン進出を考えているみたいなんですね。日本人のワーキングビザの枠ってあるんですよね」

「新しく会社をつくった場合、その資本額に対して一人とか二人とか、ある程度の基準があるんじゃないですか」

「会社をつくる時の出資比率はフィリピン側を五一パーセント以上にしないといけないんですよね」

小山内も詳しく調べているだろうが、聞かれそうな初歩知識の確認をしておく。

「まぁ、それはこの国の法律で決められているんで、しょうがないですね。だから、よっぽど信用できるパートナーと組まないと、全部持っていかれる危険性がありますよ。実際に出資してなくても名義だけでも出さないといけない。委任状を取ったにしても、相手が表上五一パーセントの株主になっていれば、好き勝手されてしまうこともあるので」

「その辺のこと聞かれたら、私からはやたらな事言わない方がいいですね」

翻って正嗣は自社のことを考えた。会長のヴィラヴィセンショーは謎が多い人と言われているが、本当に信頼できるパートナーなのか。ただ、彼にとっても会社にとってもメリットのある関係を保っているので一○年続いてきたのだろう。

九時近くまでロビーの様子を見ながら丈と話していたが、小山内は帰ってこなかった。小山内の明日のフライトは午後二時くらいと聞いていたので、明日の朝会うことにしようと決め、寮の電話番号を添えて「九時頃まで待っていたこと」、「明日の午前中に会ってもいいこと」を記したメッセージを小山内の部屋のキーボックスに残した。