正嗣が寮にもどりシャワーを浴び、リビングでビールを飲みながらくつろいでいるところへ電話が鳴った。時計を見ると一○時を回っていた。
「ハロー」
「晝間さんですか」
「はい。小山内さんですね」
「今日は本当に申し訳ありませんでした。夕方ハイウェーで大きな事故があったようで、三時間ほど立ち往生しました」
小山内は遅くなった理由を説明した。
「それは難儀でしたね。お疲れになったでしょう」
「今部屋にもどったところなんですけど。お待ちいただいているのを知りながら連絡ができなくて」
「この国ではよくあることなので、お気になさらないでください」
「……」小山内の応答がなくなった。
「もしもし、小山内さん」
「……」相変わらず応答がないが、息遣いは感じられる。
「もしもし、どうかされましたか」
「あっ、すいません、……」
「明日なんですけど、一○時くらいにお伺いしましょうか」
「……、あっ、はい、分かりました」
姿を見ずとも応答が途絶えたり変に間があったりして、どこか小山内の様子がおかしく感じられる。
「それでは明日一○時にお伺い致します。お休みなさい」
「……、あっ、お休みなさい」
この日の彼の仕事は会社の未来が懸かった主力工場建設場所の視察なので、相当疲れたのだろうと正嗣は思った。