肝臓は「沈黙の臓器」
病気と糞尿の関係性については、こんなこともある。真っ黒のドロドロした便があるのは、胃・十二指腸潰瘍や胃癌を患っている人のいる家だ。また、逆に色のない白い便の場合には、暴飲暴食して、肝機能が警告を発している人がいることが多い。
あるとき、世間話のついでに、その家の奥さんに家族に肝臓の悪い人がいるかもしれないという話をしたことがあった。
「あんまり美味しいものを食べすぎたり、飲みすぎたりするのは、身体に悪いからほどほどにしたほうがいいですよ」
「何言ってんの。私たちは貧相なものしか食べてないよ。それなのに旦那ときたら、最近飲み仲間ができて毎晩飲んで酔っ払って帰ってくるから、困っているのよ」
「ご主人にお酒はやめてもらって、一度病院に行ってもらった方がいいですよ」
「うちの人は、人に言われて病院に行くような人じゃないからねえ」
健一は一日も早く検査することを勧めたが、奥さんは結局そのままにしていたようだ。
数年後、そこの主人は肝硬変から肝臓がんになり、亡くなってしまった。
肝臓は「沈黙の臓器」「忍耐の臓器」と呼ばれ、よほどのことがない限り音を上げない臓器だ。だから症状が出てからでは手遅れになることが多く、早期発見が大切だと言われている。
一昔前までは、今のように年に一度の健康診断をする機会など、ほとんどなかった。毎月来る汲み取り屋が病気の兆候を教えてくれることもあって、お礼にタバコや酒、サイダーや果物などを持たせてくれる家もあるほどだった。
加藤家のトイレの糞尿は、ドロドロして黄色いコールタールのようだった。そして、何より甘酸っぱいような強烈な悪臭がした。屎尿の臭いには慣れているはずの健一でさえ、その臭いには耐え切れずに吐いてしまい、業務用の消臭剤を撒いて作業しなければならないほどだった。
そのうえ、粘り気のある糞尿は、バキュームカーのポンプに大きな負荷がかかるので、汲み取るのに倍近い時間がかかってしまった。
これは典型的な糖尿病患者のいる家のトイレである。