水の分子の夢

フォールは大きな工場のような場所にいました。部屋の少し高い位置に人口の用水路が何列もできていました。それらは、ちょうど腰の高さぐらいで、部屋を占領していました。

彼は、管状にくぼみができた水路の一つに近寄り、のぞいてみました。その中を水が速い勢いで流れていて、水路の上には数メートル置きに、黒のメタルボックスが橋のように設置されていました。空港で見かけるスキャナーのような感じでした。

水がそのメタルボックスの下を通過する時、水の構造が変わるような感覚を彼は覚えました。

何が起こっているのだろう、何を見せられているのだろうと、彼はそばに立って、勢いよく流れる水を見つめていました。

すると突然、流れる水からイメージが飛び出し、どんどん大きくなって、25センチくらいの高さのホログラムが現れたのです。

それは水なのですが、その形は今まで見たことのないものでした。

まるでブドウの房のようで、その一粒一粒がクルクル回る小さな水の玉なのでした。その水の玉は、透き通っていて、ものすごい速さで時計回りに回転していました。

小さな玉それ自体が水でできている、水そのものだったのです。

意外にもその時彼が考えていたのは、あの信じられないほどの回転速度が、水がこぼれない理由に違いないということでした。

彼は自分の思考の論理性に驚きました。不思議な感覚でしたが、まるで完全に目覚めている時のようだったのです。

なおよく見てみると、水の粒々の上に、何というか、小さな屋根のような、蓋みたいなものが被さっていました。奇妙な形の蓋で、薄い長方形(長さは2~3センチ位)をしていて、その上にさらに小さな丸い蓋がついているのでした。蓋はいずれも濃い赤みを帯びた茶色でした。どういうわけか、これらの蓋は、なんかしっくりしない感じでした。しっくり来ないのです。

彼は、こんな異様なホログラムが目の前に浮かんで、回転しているのを見せられて驚き、今度はなんと、水が呻くように彼に話しかけたので、びっくり仰天してしまいました。

水は、苦しく喘ぐようなトーンで言っていたので、フォールは泣きたくなってしまいました。

「わたしの顔を見て! わたしが何をされたかを見て!」

フォールは心臓が止まるかと思いました。信じられませんでした。「水がぼくに話しかけている? これって、本当に起きてることなの?」そして、彼の心は張り裂けそうでした。それは明らかに悲痛な「助けて!」の叫びだったからです。

夢の中では、これは紛れもない事実でした。水は彼に助けを求めていたのです……彼に……? いったい、彼に何ができるでしょうか?

「なんで、水はよりによってぼくのところへ来たんだろう?」彼は不思議で仕方ありませんでした。

さまざまな思いが同時によぎりましたが、不思議だったのは、「水」が彼を、理由があって、つまり、助けられる位置にいる人間として、呼んでいたということです。

「ぼくは誰かに伝えるべきかしら? でも、誰に? それに、何て?」

あろうことか、彼はそのことを夢の中で明晰に感じたのです。