次に不耕起栽培について簡単に説明します。遺伝子組換え作物の開発に先立って畑全体を耕耘するのではなく、土壌が飛散しないように畑に細い筋状の切れ目を入れて、その隙間で作物を育てる不耕起栽培(No tillage)あるいは省耕起栽培(Reducedtillage)と呼ばれる作物栽培技術が開発されました。

この栽培技術では、例えばトウモロコシ、ダイズの順番で作付けする場合、前作のトウモロコシを収穫した後に茎葉を土壌にすき込まずに粉砕して表面に撒きます。土壌がトウモロコシの茎葉で被覆されることにより、雑草の発生をある程度、防ぐことができます。

この栽培技術は作物の残渣を利用することから「Crop Residue Management System」とも呼ばれ、作物を収穫した後にイタリアンライグラスという牧草を秋に播種し、翌春、除草剤で枯らして、その枯れ草で土壌を被覆することもあります。

なぜイタリアンライグラスを使うのかといえば、その中に雑草の発生を阻害する他感作用物質が含まれているからです。被覆植物の除草効果はそれなりにあるのですが完全ではありません。

不耕起栽培を続けていくと少しずつ多年生雑草が増えてきて、やがて多年生雑草を防除しなければならなくなります。つまり多年生雑草に効くグリホサートを撒かなければならなくなってきます。ところがグリホサートは非選択的で雑草だけでなく作物も枯らしてしまうために、直接、畑で使うことができませんでした。これを可能にしたのがグリホサートに抵抗性を示す遺伝子組換え作物です。

遺伝子組換え作物を不耕起栽培して、なおかつ雑草をグリホサートで枯らせば、雑草問題も土壌流亡も解決できます。これが環境保全型農業と呼ばれるものです。環境保全型農業は急速に普及するようになりましたが、しばらくしてグリホサートで枯れない雑草が各地で報告されるようになりました。

調査したところ、その雑草の中にグリホサート抵抗性作物と同じ機構が見つかったのです。グリホサートを不活性化させるために作物に導入した遺伝子が雑草に移って、その雑草が抵抗性を獲得していたのです。これが遺伝子流動と呼ばれる現象で、作物と雑草が近縁であるがゆえに起こったものと考えられます。

遺伝子組換え作物は人為的に受容部位を変化させた植物であり、その遺伝子が雑草に移るわけですから、除草剤抵抗性が発現してもまったく不思議ではありません。作物の祖先が雑草であったことを考えてみれば、遺伝子組換え技術が遠からず破綻するのも当然のことと頷けます。