いたずらな運命~信頼とエゴの狭間で~
うまく言えないが、今日の監督は変な気がした。
俺が犯罪に手を染めた人間だとわかったから、信頼を失ったのか……。それとも、監督自身に何か起こったのか……。見限られようとしているのか、俺はもういらない人間として……。
それになぜ、監督は得体の知れない通報者と言ったのか? 通報者のことは、警察も詳細な発表をしていなかった。そして、あの指紋だ。あれはいったいどこから発見されたのだ。疑心暗鬼になった。
とにかく、脚本をまとめてから確認しよう。俺は新しい映画の脚本を書き始めた。話は推理小説からヒントを得た。
殺人事件が起こるが、犯人につながる手がかりが少ない。はかない人生だった、被害男性の足取りを一歩一歩、刑事が調べていく。男性には妻と子どもが一人いたが、かなり荒れた生活をしていた。あまり収入もなく、朝から酒ばかり飲んでいた。妻がアルバイトで得た収入も、酒に消えていく始末だった。
こういった場合、妻が犯人と疑われたりするが、彼女が犯人だという証拠は何もなかった。幼い子どもが言った言葉に、「お父さんがハイハイしながら、大きな壁にぶつかって血が出た」というのがあった。刑事は、それが気になっていた。
『お父さんがハイハイしていたのは、酔って歩けなかったからか?』
『大きな壁というのは、大男が彼を襲ったのか?』
刑事は一つ一つ検証しながら捜査していく。だが、行き詰まってしまう。結局、犯人は妻だったが、かなり大きな犠牲を払ってまで夫を殺したのは、彼に対する愛からだった。
夫には、自傷行為があって、自分を常に傷つけていた。ただ、それが家族に向かうことはなかった。「大きな壁」というのは象徴で、自分から壁に常に頭をぶつけていた。「血が出た」ことも、自傷行為からだった。