「ヨーイチぃ! ふんばれぇ! テラぁ! あーぁ! ケータぁ!」
海老沼さんの絶叫の中、それでも大磯東の後退が続く。山本先輩は、揺るがずにゲームを見つめている。花田先生は腕組みを解かず、その目の光は鋭い。
「ジューン! そっちじゃなぁーいっ!」
佑子の隣でゲームを見つめている基の頬には、柔らかな笑みがあった。
「こういうもんだって。あの子たち、これからなんだから」
レフリーの笛が響いて、ゲームは終わる。引き揚げてくる部員たちは、それでもうなだれてはいなかった。一人一人を抱きしめたい、と佑子は思う。その瞬間、ティームが輝いて見えた。
「みんなで肩を並べて、ゆっくり歩いて行けばいいんだ」
基の小さなつぶやきは、それでも胸の奥に響く。
約束の場所
恵さんは、いたずらっぽい笑顔でワイングラスをもてあそんでいる。早い午後の夏の陽の中、ヒロさんは縁側から庭に下りて、基が育てている夏野菜、それも盛りを過ぎて少々くたびれた風情のミニトマトの収穫を、とてものんびりした仕草で楽しんでいる。
そのままごとめいた畑の端で育てていた枝豆は、今はキッチンの盛大な湯気の中だ。佑子も、フローリングの床の上で、恵さんが持って来てくれた白ワインをグラスに受けて、その色と香りを楽しみながら、まだ口にはしていない。
菅平から帰って来て数日、夏休みらしい夏休みを取っていなかった佑子は、恵さんからの誘いを受けた。何の目的もなく飲もうよ、と。でも高原の紫外線を浴び続けた肌の負担感もあって、外出はしたくなかった。
なら、ウチ飲みにしようとの提案はヒロさんで、じゃあウチに来てくださいよ、という提案は基からだった。バルちゃんも呼んじゃいます?という佑子の提案には、恵さんが大喜びした。