「誰ですか?」
「江藤光夫の元息子です。あなたに話があって会いに来ました」
「私はあなたと話すことがありません。帰ってください」
「そう言われるのなら、あなた達が私達にしてきた事のすべてを、この周辺の住人達に言いふらしますよ。それでもいいのですね」
しばらく沈黙があった後で、ドアの鍵が開く音がしてチェーンロックをしたまま玄関のドアが開き、すきまから私と同年代くらいの女性を確認することができた。その女性は雄二を見ながらこう返答してきた。
「あなた、自分がしようとしている事がどんな意味か分かっているのですか? 恫喝しているのと同じ事ですよ!」
「私達の家庭をメチャクチャにしたあなた達夫婦の、今までやった行動を正確に周辺の住人達に伝えるだけだからあなたにとって何の弊害も無いでしょう!」
そんなやりとりを玄関ドアの前で2分くらいしていると、隣の住人が心配になったのか愛人の様子を確認しに来た。さすがに、愛人は現況が自分にとって不利な状況だと考えて、隣の住人に嘘を言って追い返してから、しかたなく玄関ドアを開いて家の中に私達を入れて急いで玄関ドアを閉めた。フローリングの床を歩いて中に行くと、畳が敷いてあり中央部分には高さが床下から60センチくらいしかない木製の長方形の机が置いてある居間に連れていかれた。
そして愛人側には座布団が置いてあったが、私達側には置いてなく畳の上に座るように言われた。雄二は、私の身体を心配してイスを貸してくれるように愛人に頼むと、収納ボックスの表面にクッションがくっついた背もたれの無いイスを準備して、これに座るように言ってきた。
雄二はそれを見ると、ますます怒りで表情が険しくなったが、私は雄二をなだめて腰とヒザの痛みに耐えながら用意されたイスに座った。それを確認した雄二は、すでに反対側で座布団の上に正座して話を待っている愛人を見て、怒りが爆発して話ができなくならないように、なんとか自分自身を落ち着かせてから畳の上に座った。そして深呼吸を2回してから質問を始めた。