第一章 雑草に関する基礎知識

このように日本人と欧米人の雑草観は大きく異なりますが、姿形から受ける視覚的な印象は洋の東西を問わずあまり違いはなさそうです。

例えば、一年生イネ科植物のSetaria viridisという植物があります。和名はエノコログサで、花序が穂状で犬の尻尾に似ていることに由来します。

漢名も狗尾草でイヌの尻尾ですが、英名はfox tailでイヌではなくキツネの尻尾です。

最近、芝犬が海外でもブームになっており、欧米人には芝犬はイヌではなくキツネに見えるみたいで、このことがエノコログサの英名につながったのかも知れません。

英名が~tail(尻尾)と名付けられている植物は他にもあります。

スギナ(Equisetum arvense)の語源は杉菜(すぎな)あるいは「どこ継いだ」で遊んだ継菜(つぐな)で、英名はhorse tail(馬の尻尾)です。属名のEquisetumはラテン語で馬の毛という意味です。ガマの英名はcat tail(猫の尻尾)です。

次に雑草という言葉そのものについて考えてみましょう。

雑草はかつて人の役に立たない草というよりも性状や効能のはっきりしない草の総称でした。

雑という文字には、雑木は杉や檜に対するその他の樹木、雑貨は食器や寝具に対するその他の生活用品というように、利用目的がはっきりしていないという意味が込められていたのではないでしょうか。

植物では、作物と薬草が人にとって有用な植物で、その他の植物が雑草になります。微生物では酵母菌、乳酸菌、納豆菌などが有用な微生物で、その他の微生物は雑菌になります。

しかし、昆虫では雑虫という言葉は一般的ではありません。蚕やミツバチが有用な昆虫であることは容易に理解できますが、イネの大敵であるウンカがなぜ、その他の雑虫ではなく、害虫と呼ばれるようになったのでしょうか。

これはといった定説はありませんが、江戸時代に頻発した飢饉の多くが冷害やウンカによって引き起こされたことを考え合わせると、ウンカをその他の虫すなわち雑虫と呼ぶのはあまりにも危機意識に欠けるということだったのかも知れません。

除草の動作を表す言葉もいろいろあります。