雄二はとりあえず姉が謝罪しているのをやめさせた後、感謝の言葉を伝えてからしばらく応接室にいる許可をもらい、姉が退出した後になってからも机の上にある確定調書を見ながら、先ほどまでの姉からの説明を頭の中で反復しながら理解し自分自身を必死に納得させようとしているように見えた。

どのくらい時間が経過したのか分からなかったが、このまま今の状況を続けても、何も結末が変化する訳も無いので、私は雄二の右肩を軽く触ってからここから退出する事を提案してゆっくりと帰り支度を始めた。

雄二も黙ったまま帰り支度を終わらせ、姉の法律事務所から自家用車を運転して自宅へ戻った。帰宅してからも、雄二はイスに座りテーブルの上に置いた確定調書を眺めながら、黙って姉の法律事務所で見せていたのと同じ行動をとっていた。

それから、ある程度の時間が経過した後で私に話しかけてきた。

「母さん、明日もう1日だけ職場から休みをもらって、午前中に僕と2人で愛人の家に話し合いに行かないか」

いつも仕事を最優先する雄二が、珍しく私用を優先させた。おそらく裁判所の調停について、愛人に文句の一つも言いたいのだろう。

このまま関わらないでいたら多分、1人でも愛人の家に乗り込んで何を言い出すのか分からなかったし、雄二の顔が孫の智也や妻に見せている普段とまったく違う表情に変化をしていたので、心配になり一緒に行く事にした。