そこから帰るときにその男の人が、
「宿題を出しましょう、絵を描くのん好きなんやったら、毎日絵を一枚描こう、それを今度来る時持ってきてください」
と言った。なんか知らんけど、俺はすごくやる気んなった。元々絵を描くのは好きで、小学校時代は毎週アトリエに通ってたし。帰り道で早速おかんが更のノートを買ってくれ、俺は毎日絵を一枚ノートに描き出した。好きな生き物をテーマにして。
毎日やることができて、とにかく家では宿題をせっせと描き続けた。おかんはフルタイムで働いとったから、家には日中誰もおらん。自分のペースで好きな絵を描くことに没頭できた。
おかんには、
「ずっと家におるんやったら、なんか手伝って」
と言われ、とりあえず洗濯物をたたむのと、あとはみそ汁作作ったりした。そんな俺に、出来映え抜きでおかんは、
「ありがとう」
といつも気前よく言ってくれた。俺も家で役に立てることがあって、その一言はとてもうれしかった。
それからは、月に何回かおかんと男の人のところへ相談に行き、帰りは必ずどっかで飯食って帰った。おかんは働いてたから、結構内緒でええもん食わせてくれた。
実はこの行き帰り、俺はおかんと手をつないでたらしい、覚えてへんけど。あとでおかんは、
「下のきょうだいがすぐ産まれたから、その頃甘えられへんかった分を今取り戻してるんかなあと思ってた」
と言って、もう中学生の俺の手を振りほどかずにつないでてくれてたらしい。