「先ほどからそなた達は後ろで何をコソコソ話しているのだ? それに中根。そなたの赤い顔は如何したのだ」

「あっ、羅技様……。な、何でも御座いません」

仲根は、想像とはいえど自分を恥じた。

羅技が後ろを振り向くと皆、黙り込んだ。

「ふ~ん! お前達は我が何故月に一度、七日間神殿に籠るかが気になるのか? その訳を知りたいか? 重使主、仲根。そしてお前達もか?」

全員が嬉しそうに頷くと、

「我は父の命で月に一度神殿に入り、祈りを捧げているのだ。心身を清め、七日の間は一歩も外には出られぬ。それに魚や肉を食する事も出来ない。少しきついが、次期当主になる為の勤めであるからな」

「あっ! それで若様が神殿に入られた時、清姫様は朝と夕に行き来されておられたのか! 普段の清姫様は日に一度早朝に神殿に入られ、祝詞を捧げられて出て来られるのに。しかし、満月の深夜、若様は何時も湖に向かって涙を流しておられるのはどうしてなのですか?」

カリの言葉に、羅技はさっと顔色を変え、睨み付けた。

「お前は我らが立ち入る事が出来ない奥殿へそれも神殿の近くに入ったのか? それに羅技様の後を付けるとは何と無礼な奴よ」

重使主がカリを殴ろうとすると、げんこつから逃げようとして鹿を下げていたシギにぶつかりそうになり、慌てたシギは鹿を担いでいる棒を投げ出して、後ろにいたトビは尻もちを付いた。

「こらー。怪我をするじゃないかー」

トビは尻をさすりながら立ち上がると、羅技が問うた。

「重使主、叱るでは無い。カリよ、お前は何故奥殿まで入って来たのだ?」

「清姫様がお美しいのでつい、後をついて行くと、清姫様が若様をお連れして神殿へ入って行かれたのを見てしまいました。お許し下さい」

カリは目をぎゅっとつむって手を合わせると、

「あはは! 我は神では無いぞ! しかし、これからは二度と奥殿や神殿に近寄る事はするなよ。それと湖の事はすまぬが理由は話せぬ」

「若様はいつも花のようなとても良い香りをされていますなあ!」

とトビが言うと、

「姉上がいつも我の衣に香をたいているのだ。要らぬと言うのにきかないので困っておる」

と羅技は眉を下げて困った顔を見せた。

「われ等はこの香りが好きです!」

一同の快活な返事に、羅技は、表情を見られぬよう前を向いてほほ笑んだ。