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色彩あふれる音に触れた珠玉のひととき
2019年9月18日にリリースされる上原ひろみのニューアルバムは『Spectrum』というタイトルで、その名のとおり、全9曲が「音楽と色」をテーマにしています。ビートルズの『Black Bird』や、ガーシュウィンの『Rhapsody in Blue』などの名曲と、彼女のオリジナルで構成されています。
小学校の頃に教わっていたピアノの先生が、色を使った楽しい指導をしてくれたそうです。例えば、フォルテは楽譜の記号を赤く囲み、逆にピアノは青く囲む、というようにです。その頃から音を色と結び付けて表現するという意識を持ち始めたそうです。
今回のアルバムでも、青にまつわる曲を4曲取り上げています。若い頃は1、2色しかなかった青を、今はグラデーションで弾けるようになったらしく、本人は「これが年輪を重ねたということですね」と笑っていました。
特に感銘を受けたのは、彼女の「前向きに総括する」という生きる姿勢です。「大変だったことも、時間が経つと楽しい思い出になるので、特に大変だったことは思い出せない」と言うのです。フランスでのライヴを引き合いにして、説明してくれました。
ストラスブール近くのペティット・ディラールという小さな町で行われたライヴが、あいにくひどい嵐に見舞われ、夜9時に始まった演奏も、激しい雨と落雷で中断を余儀なくされたそうです。1時間半ほど経って、ようやく演奏は再開されたのですが、電気を使う楽器はやはり感電事故が怖いという理由で、アコースティックピアノを弾く上原ひろみだけがステージに残り演奏を続けました。
中断の間、年寄や子供も多く含まれていたにも関わらず、殆どの聴衆は帰らずに近くの教会に避難して再開を待ち、再開後は11時半頃まで、濡れた椅子に座ることもなく、立ち見で熱心に演奏に聴き入っていたとのことです。
今や、コンテンポラリー音楽では、全ジャンルを通して世界最高のピアニストの一人にまで成長した彼女の演奏だったからこそかもしれませんが、片田舎の小さな町でも、人種や国籍を問わず、一流の音楽を認め、尊重するというフランスの民度の高さを感じたエピソードでした。