さすがに耐え難いものでした。年と共に体のダメージは大きくなっていました。物陰に身をひそめていても、寒風は体中の血をも凍らせるのではないかと思う程、身を刺すのでした。

その時、長男が窓から「薄い羽織」を投げてくれたのです。彼が投げさせたのでしょう。

小学校六年生の長男です。今思うと、どんな気持ちで投げたのでしょうか。その心情は計り知れないものが……。心が痛みます。

長男の心を思いやり顧みるゆとりさえもない、むごい母の姿です。その羽織を長男が投げた時、長男は父親とどのように接していたのかしら……。

その場所から住宅の庭を見渡すと、建物から少し離れたところに、幸いなことに大きなニセアカシアの木があり、根元に人が体を丸めてやっと入れる程の窪みがありました。その窪みに身を入れて体を丸め、膝小僧をぎゅっと抱きしめて風を避け、暗く寒い夜をじっと耐えて過ごしたのでした。