「いかがでしょう皆さん。これが主役のマルト神群のいでたちです。いかんせん彼らは主役のスタントマンです。主役が二十七役もこなさなくてはならないので、集合時の用意として彼らを用意したのです。彼らはほとんどセリフがありません。しかしですね、彼らは主役の熱烈な崇拝者です。信奉者です。できる限りの質問を受けると言っています。よろしかったらご質問なさってください」
ハービク所長の声に促されるようにして、一人の記者が手を挙げた。
「ニューズ・ワールドのクリストファー・ハリマンです。中央の男優の方にお聞きします。あなたにとっての婆須槃頭という俳優はどのような存在なのでしょうか」
背格好が婆須槃頭に一番よく似通っていると思われる若いインド人男優が、マイクを手におもむろに口を開いた。全身の筋肉がぶるぶる小刻みに震えだすのではと思われるほどの巨漢である。
「俳優としてとても私の太刀打ちできるお方ではありません。組打ちをやったって私が負けるでしょう。私はこのように映画では脇役風情(ふぜい)です。あの方はそういう私たちにも一切区別をなさらない公平なお方ですが、しかし俳優となると、まるで神話の世界から抜け出てきたかのように周囲を圧倒し始めるのです。とても、我々と同じ空気を吸っている人間とは思えないほどに。普段は一介の映画技術者に過ぎない人が」
最後の一言に会場全体がどよめいた。
「婆須槃頭は俳優じゃなくて、映画技術者だというのか」
「じゃどうして映画の主役になれたんだ」
「彼の経歴はどうなっているんだ」
口々に報道陣から言葉が飛んだ。質問に答えた男優が、しまったという風にうつむいた。
一番顔が青ざめたのはハービク所長だった。彼は壇上のハマーシュタインと涯監督を見やった。涯監督は両手を交差させて会見の打ち切りを示唆した。
ハマーシュタインがおもむろに立ち上がった。