公園に着くと金属製遊具のあるエリアの、ベンチの辺りに人垣ができている。ラジオ体操に来て帰りそびれたような人、事務服を着た女性、制服のようなジャンパーを着た男性、ベビーカーに赤ん坊を乗せたまま、置きっぱなしで人垣の向こうをのぞいている母親が二人……。
と、その人垣の中から飯村巡査が出てきた。
「おはようございます。何があったのですか?」
「あ、野原さん、おはようございます。鳩が死んでいるんです」
「え?」
驚いた。この時期、この公園で最も関心の高い生き物の死だ。
「今朝ラジオ体操の人が見つけて知らせてくれたんです」
飯村巡査にうながされて人垣の中へ入る。公園課の小原係長がしゃがんでいた。挨拶を交わして、鳩の死骸を見た。例の九羽とは様子が違うようだ。
一方の羽が不自然な形で広げられ、その付け根の部分が何かに噛まれたように、赤く露出している。周囲に羽が散らばっている。
「前回とは死に方が違っていますが、とにかく問題の鳩ですから」
小原係長は持参したビニール袋に鳩の死骸を入れた。
「持ち帰ってとりあえず冷凍保存しておきます」
小原係長は役所へ戻り、集まっていた人達も散ってゆく。
「また上から叱られました」
飯村巡査が言った。
「ちゃんと巡回してたのか、なんて。参っちゃいます」
「飯村さん、絶対とは言えませんが……」
私は少し考えてから、思いきって言った。
「これは例の九羽の件とは関係ない気がします。今日の鳩はカラスにやられたのではないかと思うのです」
「カラスですか?」
「はい。以前カラスが鳩を襲うのを見たことがあるのです」
「そんなことがあるのですか?」
「はい、可能性はゼロとは言い切れません」
「そうですか、有難うございます。報告書にその旨記入して、あ、それから役所の方にもきいてみます」
飯村巡査は自転車にとび乗って戻っていった。