材料が次世代の技術開発のボトルネックになっていることは言を俟たない。多機能で高度な科学を駆使したマテリアル「知材」(三菱総研造語)が今こそ必要である。
以下に紹介する有力企業に共通するのは、独自な素材・部材によりonly one型商品を持ち、それらを世界のブランド化した点にある。
江戸時代の野田市の有力醸造業者であった茂木一族らは「野田醤油株式会社」を起し、醤油商標の亀甲萬を社名・キッコーマンとした。かつては日本の日本人のための醸造メーカーとの印象が強かった。しかし今では独自の伝統製法による醸造発酵技術により食文化を世界に広め、海外事業の売上比率60%、営業利益の70%を叩きだすまでに至ったのは驚きでもある。
信越化学工業は、半導体産業のコメと言われるシリコン・ウェーハーで、高品質・高生産性により増収・増益をはかり、世界のシエア首位をキープしている。半導体に関連して、筆者は社名すら知らなかった企業に、20年前の浅川研究室の学生が入社した。「ディスコの常識は世間の非常識」との企業文化を掲げ続け、ウェーハーの半導体チップの超極薄砥石やレーザーによる切断や装置では、現在オランダ・米国などを抑え世界の需要をほぼ独占している。
堺の鉄工所職人だった島野庄三郎が26歳で創業。国内外でスポーツ自転車の進化をリードする部品メーカーのシマノの強みは「材料と熱処理」である。その世界シエアは8割に達している。
中国の狙うLiイオン完成品電池事業からは早期に撤退した旭化成は、その戦略素材・部品である「隔膜」に特化して、世界での高シエア・高収益を得ている。鉄鋼材料も現在の2倍以上の強度になる可能性を秘めており、楽しみな分野でもある。
最後に質的にも量的にも大きい自動車の動向である。中国ではエンジン技術が『弱み』のため、これをリープ・フロッグ(蛙飛び)して一挙に電気自動車に躍り出ようとしている。日本政府も脱炭素につられるように、電気自動車に急速に傾き始めたがトヨタはこれに警鐘を鳴らし、エンジンを含めた自動車産業の裾野である素材・部材・部品の『かなめ』の重要性を訴えている。
至極まともな対応である。今後は、材料とその加工法などの洗練されたハードウエアが必須な時代が必ず来る。うまい料理(ソフト)は日本の卓越した食材・料理法(ハード)にあることは論を俟たない。