幸福な高齢期への四つのステップ
中高年の脳や知力と心理的成長について研究したジーン・コーエンは、人生の後半期における発達のステップとして、「再評価段階」「解放段階」「まとめ段階」「アンコール段階」の四つがあると唱えました。この四つのステップを順に踏んでいくようにすれば、幸福な高齢期が実現すると考えたのです。
最初の「再評価段階」では、これまでの人生や自分自身を見つめる(再評価する)こと。人生の折り返し地点までくると、それまでのように、いくらでも時間がある、やろうと思えば何でもできる、うまくいかなかったことでも十分に取り返せるといった発想は現実的ではない。
だから、これまでの経験を振り返って冷静に自分を評価し、残された時間をどのように使うべきかを考えることが大切になってくる。また、折り返し地点のように思えても、実際にはいつ死ぬか分からないから、死を徐々にでも意識しておくようにするのも欠かせない。
次に「解放段階」で、時間的にあるいは精神的に縛られていた事柄が減った(解放された)ことを自覚すれば、その結果、それまでの人生ではできなかったことをやりたいという意欲が湧いてくる。「再評価段階」において死や残された時間を意識していれば、「今、やりたい。やるしかない」といった欲求が出てくる。
退職や子の独立によって、仕事や家事・子育てといった「やらなければならない」ことではなく、「やりたいこと」に焦点が当たるようになり、それは、不自然で無理をする自分ではなく、本来の自分らしい言動を取り戻し、自分らしい暮らしぶりを獲得することにもつながる。
「まとめの段階」では、「やりたいこと」をやっている“本来の自分”(再評価段階とは異なる自分)を改めて見つめ、これまでの人生を総括すること。そして、「やりたいこと」に集中できている環境や、「やりたいこと」に自由に時間が使える社会やそれを支える人々への感謝を持つこと。
このような気持ちは、自身の行動を恩返しや貢献に向かわせる。人生をしっかり総括できれば、死をより明確に意識できるようになり、死を恐れない態度が身につく。そうすれば、死後に子や周囲に迷惑をかけないための準備・整理に落ち着いて取り掛かることができる。
最後の「アンコール段階」に至ることができれば、コンサートで本演奏が終了したあと、アンコールとして演奏者が軽めの曲をリラックスしていかにも楽しそうに、笑顔をたたえて演奏するように、気楽な気持ちで、マイペースで人生の最後の余韻を楽しんでいるような状況になれる。このような人は、続けてきた日々のルーチンワークに淡々と取り組み、物事のちょっとした変化や、草花や空の様子などから季節が移ろっていく様子などに喜びが感じられるようになる。
取り組んだことの結果の良し悪しに一喜一憂せず、他者の評価などは気にせず、世間の常識にとらわれず、一般的な型にもはまらず、とても自由にしていられる。その発言や行動から、経験や知恵や自分らしさや深い味わいなどが感じられ、個性的な人格として肯定的に認められる。