「逆行性健忘」と言って、頭部に強い衝撃を受けると、その前に起きたことを忘れてしまう病態があります。この記憶障害は小説やドラマなどでもしばしば出てきますが、そのメカニズムはあまり知られていません。実は、衝撃直前の一定期間の出来事は、短期記憶から長期記憶に移るプロセス時に障害を受けるために、長期記憶として残らずに失われてしまうそうです。

また、アルツハイマー型認知症では、進行すると短期記憶だけではなく、長期記憶も失われますが、それは大脳皮質にも病気が広がり、長期記憶を蓄える神経細胞も失われるからです。

逆に、記憶力がとても良い人の生活はどうでしょうか。何でも記憶しているので、とても便利でうらやましい感じがします。ところが、実際はそうではないようです。

稀に一日中の出来事をすべて覚えている人がいるようですが、すべてのことに関する細部の記憶がはっきりとよみがえってしまうため、全体をすっきりとまとめることができないそうです。また、夜寝ようとすると、頭の中に朝起きた時からの一部始終を思い出してしまい、なかなか寝付けなかったりするそうです。

そうすると、程よく忘れることも、生活を快適にする能力の一つのようです。そうは言っても、普通の記憶力の人間にとっては、記憶力を高めたい場合もあります。そのためには、何度も繰り返し練習することが大切です。練習を繰り返し何度も刺激を与えることによって、神経細胞同士の連絡(シナプス)が広がり、より強固になるそうです。

この効果に関しては、ノーベル賞級の研究者たちが、ヒトやいろいろな動物で実験した膨大なデータがあるので保証付きです。年だからとあきらめず、繰り返し自分の神経回路を鍛えて記憶力を伸ばしましょう。