『消えたアクセラ』第一章(新車が来た)
「へえ、これが新しい車ね。名前はなんていうの?」と妻のさぎりが言う。
「アクセラだよ」と答える伊能。
「アクセラか」につづき妻は突然、「アクセラって、ウルトラセブンみたいな顔してるわね」と、言った。
一三年の長きにわたり愛用し、元気な人はもちろん、病に倒れそうになった家族も、更には大きなテーブルや箪笥、はたまた結構大きめな冷蔵庫に至るまで数多の荷物も運んでくれた頼もしき働き者のステーションワゴンMAZDAプレマシー・スポルト2L シルバーメタリック。
以前と変わらず、力強く走行してはくれるものの、流石に老朽化して、自動車税も保有年数に応じて二段階目の引き上げとなり(あちゃー)、頻繁な部品交換やらなにやら、やたらと費用が嵩むようになった。
「大切に乗っていただいて、誠にありがたいことではありますが、今度ばかりは……」
と、馴染みの販売店のいかにも言い難そうな様子での強い奨めもあり、もはやこれまでと悲しい別れを告げ、新車に乗り換えることに決めたのが二ヶ月ほど前のことだった。
そして、選んだアクセラ・スポーツ1.5L ダークメタリック。
ほかならぬこの新車が初めて我が家にその姿を見せた記念すべき納車の日のことだった。
妻から、「ウルトラセブンみたいな顔」と云われ、伊能は、訝しげな顔をした。それというのも、(ウルトラセブンに出て来る車両といえば、ウルトラ警備隊のポインターのことか?)と思ったからだ。
「ポインターとはちょっと違うんじゃないか」と伊能が言うと、
「違うよ。ウルトラセブンの顔だよ」と、さぎりは、少年のような口調になって応えた。
そう言われて改めてアクセラをつくづく眺めると、なるほど顔のつくりがどことなく、ウルトラセブンに似ている。空気取り入れ口のいわゆるフロントグリルの形も、柔らかな三角形にキリリと吊り上ったヘッドライトの形状も、(どことなくどころではないぞ。ウルトラセブンの顔に瓜二つだ)。
伊能はさぎりの観察力に感心した。流石に、かねてよりウルトラセブンファンを自任するだけのことはある。
ウルトラセブンとは、かの円谷プロの誇る特撮ヒーローもの。その中でも傑作との誉れ高い作品である。
まだ、駆け出しの新人ながら、見るからに正義感に溢れた好青年だった若き日の森次晃嗣が、ウルトラセブンに変身する主役モロボシ・ダンを演じた。
因みに、ウルトラセブンの登場人物はなぜか誰もが片仮名で表記される。カタカナ文字を選ばないと叱られそうなほどに、あのキリヤマ隊長もまた然りなのであった。
そして、ピチピチな制服に身を包み、子供が悪戯をして、大人の帽子を被ったのかしらんと思ってしまうほど、明らかに大きすぎるヘルメットを被り、男性隊員らと共に、果敢に怪獣や宇宙人に立ち向かうその姿が、清潔感に溢れた不思議な色気を燦然と放ち、少年達を虜にした、ひし美ゆり子演ずるアンヌ隊員が、特撮ヒーローものには珍しく艶ややかな彩を添えていた。