母のあんこの量はお客様の笑顔の量だ。父がだんごの生地をつくり、母がたっぷりのあんこを付ける。

『いち福』のだんごのはじまりは、二人がお客様に"おいしく食べてほしい。笑顔になってほしい"と心から想った心の形にほかならない夫婦の串だんごである。

だんごづくりは相変わらず試行錯誤しながらの日々が続いていたようだ。そのほかにも創業当初の『いち福』は、だんごのほかに"ゆべし"と"おはぎ"もつくっていて、そのなかでもゆべしは飛ぶように売れていた。

「ここをこうやって半田ごてでとめるの」

母のやり方を見ながら小学生だった姉と私が真似をする。

「これでいい?」

「大丈夫。上手にできてる。火傷だけ気をつけてね」

半田ごては、ペン先のような形状の金属製の先端部分に電気によって熱を与える工具で、一般的には電子製品の工作のために使うもので、もちろんアナログな『いち福』にとって電子製品なんてものはなく、ゆべしを包装するフィルムをとめるための道具として使っていた。

「喜代恵は器用だね。私より綺麗にできてる。助かるわ」

器用な姉はどんどん作業を進めていく。一方私はというと、

「ねぇ、これはうまくできてる?」

母に私が包んだゆべしを見せると、

「もう1回だね」

母は笑ってもう一度やり直させた。

「これ何個ぐらいやるの?」

先の見えない作業に不安になった私が母に質問した。

「えぇと…まぁ500個ぐらいかなぁ」

と母が言うと、私はその途方もない数に白目をむいた。

「……」

「ほら、やるよ!」

姉はその個数を聞いてさらにエンジンがかかったように作業を加速させていた。