俳句・短歌 短歌 2021.09.05 短歌集「蒼龍の如く」より三首 短歌集 蒼龍の如く 【第6回】 泉 朝雄 生涯にわたって詠み続けた心震わすの命の歌。 満州からの引き揚げ、太平洋戦争、広島の原爆……。 厳しいあの時代を生き抜いた著者が 混沌とした世の中で過ごす私たちに伝える魂の叫び。 投下されしは新型爆弾被害不明とのみ声なくひしめく中に聞きをり 伝へ伝へて広島全滅の様知りぬ遮蔽して貨車報告書きゐし 擔架かつぐ者も顔より皮膚が垂れ灼けただれし兵らが貨車に乗り行く 新聞紙の束ひろげてホームに眠る中すでに屍となりしも交る 息あるは皆表情なく横たはり幾日経てなほ煤降るホーム (本文より) この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 幾年も水害つづきし山あひの狭き砂地にバラック並べる 松山に下より差せる夕日かげ窪みかすめてしばし流らふ 山峡の奥のか黒き山の秀に此処に降りたる雲がまつはる
エッセイ 『プリン騒動[人気連載ピックアップ]』 【新連載】 風間 恵子 「そんなプリンなんか作ってないで、早くメシのしたくしろ!」台所で一挙手一投足に怒り狂う義父。言葉の暴力が鉛となって心臓を突き抜けた。 ある晩のことだった。三人で、夕食のしたくをしていた。この三人と言うのは、舅(しゅうと)・姑(しゅうとめ)・嫁すなわち、私の事である。台所は女の神聖な場所と考えられているのではないか。しかし、この家では、舅が当たり前のように立つことが多い。自分が調理したものは自慢をするが、人の作った料理は決して、美味しいとは言わない。逆に貶す事に喜びを感じるタイプである。野菜の切り方から、味つけまでを一つ一つ指摘…
小説 『魂業石』 【第12回】 内海 七綺 「子供はまだか」…? 手のかかる異分子は当面、必要ない。夫も義父母も、どうしてそんなに子供を欲しがるのだろう。 六月にしてはからりと晴れた水色の空に、ピンポンパンポンと間の抜けた音が鳴り響く。開け放たれた窓から爽やかな風とともに飛び込んできた声は独特のハウリングがかかっていて、こんなに静かな真昼だというのにほとんど聞き取れない。それから五分を待たず、支所の電話が一斉に鳴りだした。「はい。飛熊市緋桜支所住民課の真田でございます」「おいお前、何時だと思ってんだよ。朝の十一時だぞ」溜息を飲み込み受話器を上げると…