この牡蠣カバ丼、ジューシーな牡蠣と甘辛いタレの相性は抜群だ。その牡蠣の旨味とタレが絡んだご飯はいくらでも食べられる。若者カップルはかきこむようにして食べている。箸が止まらないようだ。
「ちょっとー俊平さん。ご無沙汰じゃない」
扉が開いて月子さんが入ってきた。向かいのビルの二階にあるスナックのママさんだ。
「いらっしゃいませ。月子さんビールでいいですよね」
バイトの美紀はカウンターへテーブルへと今日は特に忙しそうだ。
「ありがと。美紀ちゃん。あれ? なんかすっごくいい匂い。何の匂い?」
「あ、おじさまの彼女さんですか? 牡蠣カバ丼っていうのをご馳走していただきまして」
あれ? 彼女になってる……。君たちみたいな関係じゃないからね。
「あら~私も食べた~い。彼女ならご馳走してくれてもいいわよね」
「あ、はい」
否定するとあとが怖いからまあいいや。
「大将、月子さんにも牡蠣カバ丼ね」
「牡蠣カバ一丁。ありがとうございます」
「あ、私、ご飯も牡蠣も大盛でね。今日はこのあと予約のお客さんがたくさん入っているからしっかり食べておかないとね」
なんだい、まかない食べにきたのかよって思ったけど、月子さんも牡蠣カバ丼は大好物らしい。嬉々としてできあがりを待っている。
「秀くん、美味しいね。私のご飯、少し分けてあげるね」
「ありがと。亜美もたくさん食べろよ」
「なんか、私……。ごめんね。離れてるから不安になっちゃって」
「バカだな。信じろって。俺のこと」