季節を感じる。心のゆとり

華道では、四季折々の花を生けます。

おおざっぱに説明しますと、元旦には、神の降りてくるのを「待つ」依代(よりしろ)として、「松」を生けます。

三月三日の雛祭りには、女児の健やかな成長を願って、古来から霊力があり、邪気を払ってくれると信じられている「桃」を生けます。

五月五日の端午の節句には、男児の健やかな成長と将来の発展を願って、強い芳香があり、それによって邪気を払ってくれる「菖蒲(しょうぶ)」を生けます。菖蒲の細長い葉は、剣のようでもあり、「勝負」にも通じる事から、強い男性に育って欲しいとの願いも込められています。

七月七日の七夕には、陰暦七月七日に、牽牛、織女の二星が、天の川を渡って相逢うという伝説により、この日、五穀豊穣と技芸上達、幼児の幸福を祈る習わしが古くから伝承されており、秋草を用い、「七夕の花」として生けます。また、「梶(かじ)」の葉に、願い事の歌などを書いて、星に手向ける習わしがあった事から、梶の葉を生けたりもします。

九月九日の重陽の節句には、九が一番大きい陽数(奇数)で、その九が重なる日で、おめでたい日であると同時に、満つれば欠ける世の習いのように、縁起の悪い事にならないようにと願い、香り高く邪気を払ってくれる「菊」を生けます。

菊は皇室の紋章であるくらい高貴な花であり、延命長寿の花とされています。その菊を、白、黄、赤の三色を生け、葉の緑を青に見たて、水盤の水を黒に見たて、これも邪気払いとされる五色に生ける習わしです。

このように、いけばなには、古くからの由来があり、普遍的な人々の祈りが込められています。その他にも、節分の花、立春の花、春分の花、夏至の花、立秋の花、秋分の花、立冬の花、冬至の花、大晦日の花と、あげればキリがありません。

日本には、春、夏、秋、冬と、四季があり、四季折々に咲く花があります。いけばなとは、季節ごとの花を生ける事で、これらの自然を、生活の中に取り込み、季節の移ろいを日々、身近に感じられるようにするものです。そうする事で、自分もまた、自然の一部である事を思い、自然との一体感を覚え、何か心が安らぎます。

また、近年は、床の間のある家は少なくなりましたが、玄関に花を生ける事で、やはり、来客への心を込めたおもてなしができます。これにより、人との交流をあたたかなものにする事ができ、何よりも、花を愛でる事で、人は心に余裕を持てます。

勤めに出る人も、朝、出かける時に、玄関の花を見、まだ蕾だったのが、帰って見ると、花開いていたりすると、その日の疲れも癒されます。

花は、何も求めず、ただ、その美しさを与えてくれます。その無償の愛を感じとる事で、人もまた、愛に目覚めるのではないでしょうか。花と親しむ事で、誰もが、知らず知らずのうちに、元気になれ、明るくなれる、そう感じます。

どうぞ、皆さんにも、一輪でも、生活に花を取り入れ、心のゆとりを感じて頂きたいと思います。