武政教授は、私が筑波大学で初めて関わった基礎生物学実験の最初の学生の一人でした。

卒業研究では私の恩師でもある渡邉良雄教授の研究室に入り、テトラヒメナの繊毛内のカルシウム結合タンパク質の研究をして、博士号を取得しました。以来、彼とは37年の付き合いがあり、遅筋化の研究に挑むことになった私は最高のパートナーと組み、「筋肉に対するMAFの効果を検証する研究プロジェクト」は次々に面白い成果を挙げていきました。

その第一弾は、MAFによる骨格筋の持久力増進効果です。

マウスを用いた筋持久力増進を調べる実験にはトレッドミルの上を走らせる実験と、重りをつけて水中を泳がせる実験があります。今回は、トレッドミルの上を走らせるトレーニングを行い、トレーニング効果を調べる実験を行いました。

その方法は、マウス(C57BL/6:実験に一般的に使う純系マウス)を、(1)非トレーニング群、(2)非トレーニングMAF摂取群、(3)トレーニング群、(4)トレーニングMAF摂取群の4群8匹ずつに分けました(『紅茶高分子量ポリフェノールはAMPKとGLUT4の間の関係を介して運動トレーニングによる筋持久力の改善を促進する』)。

トレーニング群は5日間トレッドミルによる運動をさせます。運動時間は30分でトレッドミルの速さは15m/分です。6日目に漸増負荷試験を行い、走行時間と走行距離を測定します。

漸増負荷試験は10%の傾斜をつけたトレッドミルの速度を徐々に増加させていき、マウスが疲労して走れなくなるまでの時間を測ります。トレッドミルの速度は、はじめの4分間は10m/分で、4分ごとに速度を2m/分ずつ増加させます。7日目はお休みです。これが1週間ずつ、9週間繰り返されました。

一方、非トレーニング群は5日間お休み、6日目に漸増負荷試験を行い、7日目もお休みという1週間のセットを9週間行いました。

その結果、非トレーニング群では、MAFの摂取に関わりなく、走行時間の穏やかな延長が見られました。一方、トレーニング群では1週間後に走行時間が大きく増加し、非トレーニング群とは大きな差が生じました。その後、MAF摂取群では摂取しない群より、走行時間が徐々に延長することがわかりました。7週間後には有意差も見られました。

この結果は、トレーニング群ではMAFの摂取によって、筋持久力が亢進することを示しています。

次にトレーニング後のマウスより後肢足底筋を採取して、筋肉の生理生化学的な性状を調べました。

その結果、筋肉に糖を取り込むグルコース運搬体4(GLUT4)遺伝子の発現量が、トレーニングMAF摂取群ではトレーニング群の2倍になっていることがわかりました。

これはトレーニングMAF摂取群では糖の取り込みが増加していることを示します。

また、トレーニングMAF摂取群ではトレーニング群よりも、(1)細胞内のATP消費量を感知するAMP活性化プロテインキナーゼ(ATPK)が活性化していること、(2)骨格筋の遅筋化を誘導するPGC-1αが活性化していること、(3)遅筋型ミオシン重鎖Ⅱaが増加していること、などが明らかになりました。

これらの結果から、MAFによる骨格筋の遅筋化促進の道筋を表したのが図1です。

[図1]持久力向上に及ぼすMAF の効果

筋肉の遅筋化は持久的な運動によってカルシウムイオンとAMPKを介して、PGC-1αの活性化を引き起こします。PGC-1αは遅筋化のキーファクターで、ミオグロビンの合成、ミトコンドリアの形成、遅筋型ミオシン重鎖の合成などを促し、骨格筋の遅筋化を促進します。

一方、MAFはAMPKを活性化することで、運動による遅筋化をさらに促し、筋持久力が向上すると考えられます。