駅伝部
放課後に、正と泉と合流して、一緒に駅伝部の見学に行った。他にも4人の1年生が見学に来ていた。グラウンドで、駅伝部顧問の住田先生から先輩部員に紹介してもらった。世広中学駅伝部は世広地区大会では3連覇中で、県大会においては毎年上位争いを繰り広げているが、過去に優勝したことはなかった。キャプテンは3年生の勝部先輩だ。3000mでは県3位の記録を持っている。副キャプテンの正谷先輩は1500mで県5位の実力だ。3年生6人、2年生5人といった少人数だったが、世広台地で走り回って育った環境のせいか、みんな足に自信のある生徒ばかりだった。かくいう由大と正も足には少々自信があった。
「今年は、7人の1年生が見学に来てくれた。1人はマネージャー希望なので、2、3年の女子マネージャーは案内してやってくれ。残りの6人は、勝部にお願いする」
「駅伝部は主に夏の中学総体での個人種目と、秋冬の駅伝大会を目標に練習をするんだ。基本的には地道な練習が多いけど、特に駅伝大会はチームとして本当に盛り上がるので、一緒に戦っていこうぜ」
勝部先輩からの簡単な挨拶の後、由大たちも一人一人自己紹介を行った。由大と正以外の4人もみんな足が速そうだ。
先輩たちが練習に散った後、1年生で集まった。
「勝部先輩ってかっこええなあ」
「見るからに速そうじゃね」
「正谷先輩もいるし、今年は、県大会優勝のチャンスって聞いたよ」
「俺ら1年生からも誰かメンバーに入れたらいいね」
「俺らはライバルかもしれんけど、お互いに励まし合って頑張っていこうぜ!」
由大の父、奥田博樹は妻の友美と2人で主に梨を栽培し、生計を立てている。専業農家だ。2人とも世広町育ちで、博樹は寡黙だが情熱家、友美は社交的で、2人で3人の子供を育ててきた。由大の4歳違いの姉の加奈子は世広高校2年生、3歳違いの弟の孝太は東小学校4年生であった。
「今日、早速、駅伝部の入部届を出してきたよ」
「そうか。頑張って最後まで続けるようにな。選んだ道が正解と思えるように、努力することが大切だぞ」
お父さんは、口数は少ないが嬉しそうだ。
「あきっぽい性格のあんたに、あのつらい練習が耐えられるの?」
加奈子は世広中学出身ということもあって、駅伝部のことをよく知っている。
「梅雨時期にはひたすら筋トレをしていたかと思うと、夏は暑いさなかずっと走っとったよ。暑いのに坂道も走っていたみたいで、みんな、死ぬ~って悲鳴をあげとったよ」
「お兄ちゃん大丈夫? 孝太はお兄ちゃんと一緒に遊びたいから死なんといてね」
「おいおい、勝手に殺すなよ」
孝太は、大柄な奥田家の中でひと際体格が小さかった。同級生の中でも常に一番前だった。
「由大、とにかく体だけは気を付けて、無理のない範囲で頑張りんさいね」
最後は決まってお母さんがまとめてくれる。