ふざけんな

七月三十日(土)

孝雄にメールを……。

〈いつも気を遣わせてばかりで、すみません――〉

――お義母さんが亡くなって、ある程度の片付けが終わろうとしている今頃になって、何か自分の心の中に、今までにない何かが……。今まではいつも、イライラしたり、怒ったりしていた孝雄さんから、ちょっとでも気持ちを逸らそうとしていた自分自身がいて……お義母さんの介護にかけることで気を紛らせていたことに……今頃気づいたって遅いかもしれませんが……。

奥さんとして孝雄さんのことをきちんとできていなくて、敬語を常日頃使わせている私が、本当にこのまま奥さんでいていいのか、本当はもっと別にふさわしい人が奥さんとしていたほうが、変な気を遣わせないでいいんじゃないかって……思っているところです。

本当に、このまま奥さんとして、いてもいいんですか? 私といても、幸せを掴めそうですか? すべては自分の行ないが招いたことだと思います。

気づくのが遅いといえばそれまでですが……本当にすみませんでした。

なんて言ったらいいのかわからないですが、今まで本当に、ありがとうございました。この先、起ころうとしている将来を、私自身きちんと受け止めるつもりです。本当に辛く寂しい思いをさせていたことを反省します。

〈たびたびすみません。自分がしてきたことに、今頃不安になっても遅いし、笑えるでしょう。本当にごめんなさい。あのメール、気にしないでください〉

孝雄からの返事。

〈いつも辛い思いをさせてごめんなさい――〉

――結婚してから、いろいろなことがありましたが、本気で別れようと思ったことは一度もありません。これからもないと思います。結婚するということは一生添い遂げることだと思っているし、自分が仕事をしたいようにさせてもらってきたし、誰よりも気を遣ってくれるのは、景子一人だからです。

今、家の中にいる時、話し相手がいなくて寂しいですが、だからといって、別れるとかは、まったく考えてもいないです。仲良くなりたいと思っています。

信頼関係をつくっていくことが大事だと思っています。少し腹が立っても、毎日、一生懸命いろんなことを話し合うことが必要だと思っています。笑いのある明るい家庭にしたいです。メールありがとう。

七月三十一日(日)

佳奈美と大学説明会に行くために、朝十時過ぎに最寄り駅へ。昨日あんなメールを交換したからか、この日は、めずらしく孝雄が車で送ってくれた。

が、しかし……昇りエスカレーターの上から振り返ると、孝雄が一生懸命、携帯電話をいじっている。怪しいと思ったので、普段はしないのだが、〈説明会が終わったので今から帰ります〉と、後でメールを送ってみた。

〈仕事で出かけているため、迎えに行けません〉と返信があった。

夜、孝雄がお風呂に入っている間に、メールの送信履歴を確認したら……。

〈二時頃、横浜に出てこれるか? 短い時間でもよかったら会って〉

あの時怪しいと思ったのが的中していた。そして、揺るぎない証拠として、〈今日は会えて嬉しかった♥たーと一緒の時間が一番幸せ♥〉という、心菜さんからのメールも発見。

孝雄は夕方、きちんといつものようにスーツ姿で帰ってきた。いかにも仕事に出かけてきたかのようだったが、その実、心菜さんとデートをしていたのだ。ここで、ふと思い当たり、着信履歴を少し遡って見てみると……やっぱりあった! 心菜さんからのこんなメールが。