子どもの連れ去りが頻発

我が国では一方の親が、親権獲得を目的として身勝手に子どもを連れ去り、他方の親との接触を遮断してしまっても、事実上何の罪に問われることもありません。むしろ家庭裁判所は多くのケースにおいて、事件処理の運用上、子どもを連れ去った者に対して、結果的に単独親権を付与しています。これがいわゆる「子どもの連れ去り問題」です。

しかも不思議なことに、最初の「連れ去り」が罪に問われた事例は恐らく皆無であるのに対し、そこから再度「連れ戻す」行為については、有罪判決が下ったり、あるいは起訴猶予となったものの逮捕はされたり、といった事例が見られます。

合理的根拠・法的根拠がかなり曖昧であるにもかかわらず、こうした実態についてだけは幅広く知られているため、一般的に多くの当事者は、「最初の連れ去りは事実上何のお咎めもなし」「その後の連れ戻しは逮捕・有罪の危険性あり」という認識で行動しています。

一方で、以上のような実力行使がない場合でも、同居親が子どもを非同居親に会わせないようにしたり、子どもが自ら「会いたくない」と言うように精神的プレッシャーをかけるという、いわゆる「親子の引離し問題」についてもよく聞かれます。

以上については、この問題に関わったことがある人であれば、概ね誰でも知っていることです(詳細は、はすみ(2020)等参照)。また、こうした実態は海外に広く知れ渡っており、我が国は世界中から非難を浴び続けています。このことについて一般的にあまり知らないのは、我々日本人だけです。

以上に対して単独親権論者は、このような事実の存在を、躍起になって否定します。「子どもの連れ去り問題」に関する、弁護士の斉藤秀樹氏による主張を見てみましょう(斉藤(2019))