その2 鰻ハーフ&ハーフ
暑いのは嫌いだ。夏は嫌だ。銀行なんてもっと嫌いだ。
俊平は浜松銀行有楽街支店のクーラーのきいた店内で融資担当者を相手に孤軍奮闘していた。
「いや、だからですね。毎年夏場の落ち込みは、ちゃんと秋の結婚式や冬のパーティーで盛り返しているじゃないですか」
普段はどちらかといえば穏やかな俊平だが、今日は違っていた。いつも会社に来てくれる若手の銀行員から、今回の融資は上からのオッケーが出ないと言われ、それでは話にならないと意気込んでやってきたのだ。
外の気温は七月に入ったばかりだというのに三十度を超える真夏日。クーラーがこれでもかときいた銀行の中でも俊平の汗は引かなかった。
「しかしですね~」
窓口のベテラン行員の顔が渋る。
「これ以上の融資となりますと、御社には返済がかなり厳しくなることが予想されます」
「毎年この時期は貸してくださっていたし、返済も遅れていないですよね」
「しかし、時代が時代ですし、年々売り上げも落ちてきていますし」
「じゃあどうすればいいんですか? 今年のボーナスはないと従業員に伝えればいいということですか」
「うちとしても、貸したくないわけではないんですよ。売り上げアップに繋がる何かがあればお貸しできるんですが」
そんなこと俊平が一番聞きたい。夏場は披露宴も減るし、暑さで花の持ちが悪くなり切り花がそもそも売れない。歓迎会や送別会もあまりない時期なので花束の需要も少ないし、お盆を前にオープンする店も聞いたことがない。
要するに花が売れないのだ。それに加えてこのところの暑さで花の生育が悪い。花びらの色もきれいに出ない。そうなると質のいい花の仕入れ値が高くなる。
どうすりゃいいんだ。
結構ピンチかも、俺。
株式会社スズキフラワー代表取締役、鈴木俊平、四十三歳。三十歳で独立起業して今では本店に加えて系列店を三店舗構える経営者だ。今は悩める経営者だが。
そんな俊平の唯一の趣味で息抜きなのが月曜日の一人呑み。
銀行を出て、得意先を回ったがこれといっていい話はない。気がつけばもう五時を回っている。会社に戻るか、いや、特に来客もないし今日は直帰しよう。だが、このまま暗い顔をして家に帰るよりもいつもの店でワンクッション入れていくか。
自然と足はいつもの「酒肴・花里」に向かった。