ディーリング環境を整える
ディーリング環境を整えるため、パソコン1台と27インチの液晶ディスプレーを6枚買いこみ、1Kの自宅に設置した。
これでディーリング部並みのチャートを見ることができる。しかし、この投資は思いのほか高くついた。
ディスプレーは値段が下がっているが、モニターを支えるアームがなんと約10万円。これが予想外だった。出費額計37万円は痛い。毎日の生活費も必要だし、このままでは取引のために貯めた200万円を切り崩すことになる。
よし、アルバイトだ!
平日朝の9時から15時まではトレードがあるので、休日や夜間働けるところがいい。自宅のある天六付近で求人広告を調べてお好み焼き屋の面接を受けた。
ところが、その面接で落とされ、次に申し込んだ工事現場の監視員の面接でも不採用になった。証券会社を辞めて、デイトレーダーをやっている……、そのことがアルバイトの採用に影響するのだろうか。いや、27歳の無職はやはり社会的信用がないんだろうな。
2件続けてのアルバイト不採用にちょっとへこんで歩いていると、醤油と油のいい香りが漂ってきた。おいしそうな匂い。目の前にあったのはラーメン屋だった。
そしてそこには「アルバイト募集」の貼り紙が! 勤務時間が17時から深夜1時まで。しかも時給1100円! こっちの条件にピッタリだ! すごいぞ!
「すみません、アルバイトさせてくださいっ!」
迷わず飛び込んだその店は大阪でも有名な醤油ラーメンの店「総大醤」だった。その店のオーナーは株取引に興味があるとのことで、僕の話も熱心に聞いてくれた。ようやく採用だ。
生活費はこのバイトで稼ぎ、貯めた200万円は全て投資資金にする!
ヤーマン発進!
デイトレーダーに対する理解者が少ない中で、ディーリング部で一緒に働いていた同期の橋口は良い相談相手だった。
彼は優秀だったので、まだディーリング部に在籍していたが、近々ディーリング部自体がなくなるという噂があった。信用取引が規制緩和されれば、資金が少なくても株式市場に参入できる。
これからは個人投資家の時代になるだろう。橋口も会社を辞めて投資家になることを考えているようだった。彼はいろいろな投資家のブログを見ていて、その情報を教えてくれた。
「投資家のブログは、その人が注目してる株や取引の結果や考え方が掲載されてるから、参考になるよ。自分でも取引結果をブログに記録しておくと失敗したときの原因分析に使えていいと思う」
「そうか、俺もブログ始めるよ」
「でもね」
橋口が付け加えた。
「顔出しはやめたほうがいいよ」
「顔出し?」
「ブログは匿名にした方がいいし、自撮り写真とかもやめたほうがいい。自分の資産を公開するんだから、儲かっても損しても変な奴が近寄ってくるリスクがある」