第一章 愛する者へ
霞の四十九日の法要の三日前に、若葉の家のチャイムが鳴った。
「どちら様ですか?」
「『アフターメッセージ』の者です」
若葉は、霞から「そのとき」がきたら『アフターメッセージ』に連絡するように言われていた。
「はい、少しお待ちください」
若葉がドアを開けると、三十代と思われる背広を着た男が立っていた。
「この度は、ご愁傷様です」
見た目の年齢の割には男の声は落ち着いていた。
「『アフターメッセージ』を届けに来ました」
男は鞄から封筒を取り出し、若葉に差し出すと、
「お母様の分の他にお父様の分がありますので二枚入っています」
――お父さんの分?――
「こちらにサインをお願いします」
若葉が渡された書類にサインをしていると、
「お母様の分は今回だけです。お父様の分もこれで終わりになります。ですので、ご両親からの『アフターメッセージ』はこれが最後になります」
――これが最後――
男は鞄のチャックを閉めると、顔を上げ、
「もし、この『アフターメッセージ』を気に入っていただけましたら、大切な人のためにぜひご利用ください。連絡先はそちらの封筒の中にチラシが入っておりますので」
男はお辞儀をして立ち去っていった。
新は食事会のときに観たときと同じ黒の礼服を着ていた。
「若葉、だいじょうぶ?」
新の目は腫れていたが、口調は穏やかだった。
「若葉、母さんのことをありがとう。これからは、母さんのそばには父さんがいるから。だからだいじょうぶ、母さんのことは心配しないで」
新が微笑んだ。
「メッセージはこれが最後になるけど、二人で見守っているからね」
新が両手を振った。
「若葉、ずっと大好きだよ」
――このときのお父さんは、今の私より年下だよね――
若葉は、ティッシュを用意しておくのを忘れていたことに気がつき、霞からのメッセージを観る前に、取りにいった。