その1 もちがつお
翌週の月曜日。覚えていてくれるだろうかと暖簾をくぐると
「あ、俊平さんですよね。先週に引き続きありがとうございます」
大将、俺の名前を憶えていてくれたのか! 浜松は鈴木さんが多いのでだいたいは名前で呼ばれる。
「最初はビールでいいですか?」
頷いてカウンターを見ると今日もあのショートヘア&ミニスカで妙齢なママがいる。常連みたいだから大人しくしていよう。ビールを飲んで先週入れた焼酎のボトルを出してきてもらうと、横からかなりの視線を感じる。
「あ、これ、米焼酎ですけど、よろしかったら」
常連さんに失礼のないようにと声をかけると子犬のように嬉しそうに首を振って
「大ちゃん。いただいちゃった! 私ロックでおねが~い」
「あ、大将もどうぞ」
「いいんですか~。じゃあ僕はまだ仕事中だから水割りでいただきますね」
恐ろしい勢いでボトルは二本目に突入した。
「失礼ですが、どちらのお店の方ですか?」
「あ、私? 向かいのビルの二階でカラオケスナックをやっているの。お兄さんは?」
「私はスズキフラワーっていう花屋をやっていまして」
「やっぱりそうですよね。実は私、学生時代にバイトしたことがあるんです」
焼酎をつぎ足しながら美紀が言った。
「えっ? そうなの?」
どうりで見たことがあるわけだ。
「はい。私、浜松文化芸術大学の二年生から卒業するまで、スズキフラワーさんでお世話になりました。最初はお花の水替えや品出しぐらいでしたけど、途中でフラワーアレンジメントの資格もとったので花束も作らせていただいてたんです」
小柄だが機敏に動く様子から恐らく花屋のバイト時代もさぞかし重宝されたであろう。肩までの髪を一つにまとめて、酒の追加をそれとなく尋ねたり、皿洗いをしに厨房に入ったりキビキビ動いている。
「卒業までいてくれたんだ。ありがとう」
「確か大将は大輔君で大ちゃんだよね。君は?」
「私、週に三回バイトで入っている美紀といいます。月曜日はシフトが結構入っていますのでよろしくお願いします」
店の名前といいバイトの美紀といい縁のある店だな。
「じゃあ美紀ちゃんも一杯どうぞ」
「ありがとうございます。お酒弱いのでウーロン茶をいただきますね」
その日から毎週月曜日はカウンターの席を私専用で空けておいてもらえるぐらい馴染みの店になっていった。
数か月経ったある日、打ち合わせが早く終わり、オープン前の花里に着いてしまった。しかも、いき場のないガーベラ十本とともに。