百円玉の行方
そもそも図書館という所へ行く行為そのものが嫌いだった。読書が大好きなのに図書館へ行くのが嫌いな理由として、年寄り臭いからだ。平日仕事が休みの時に昼間から図書館へ行くといかにも定年退職した人達が教養のため、趣味のため、と退屈な時間を過ごす場所として利用している空気がいっぱい。まるで自分までもが現役を退いたような気分になってしまう。
だからいつも私は古本屋へ行く。金が無いから古本屋へ行くというのもあるが、新刊ばかり揃えている書店には私が探している本があまり置いていない。古本屋へ行けば全てが置いてあるかといえば、そうとも限らない。それにしても一冊百円程度で買えるのだから、古本屋というのは実にありがたい存在だ。
しかし悲しいことにその百円が無くて、古本屋へも行けないことがある。
百円玉を見ながら考える。この百円で古本屋へ行って本を買おうか。いや、まだ読んでいない本が確か家の棚にあるからそれを先に読んでしまって、古本屋へ行くのはまた今度にしようか。でもこの本は今読みたい気分ではない。
やはり一日一本くらいビールが飲みたい。仕事をして疲れて帰って来て、ビールも飲めずにつまらない本を読んでいるなんて死んだ方がましだ。せめて少しでも生きている実感を味わいたいから、この百円玉で発泡酒を買うことにしよう。よし、この百円玉を持って、近所のスーパーで発泡酒を買って、今日は本を買うのを諦めることにしよう。
そして、百円玉は消える。