「いや、これが何であるか読者に判断をまかせることにしよう。平均的な読者というものは、そんなものだ。もしジャーナリストが、記事の中で用語を説明することを気にかけないで、みんながみんな、市場のよぼよぼおばあさんまでもが当たり前のように知っているかのように使うと思ったら……自分も知っていると信じ始める。それで皆が満足する。へぼ文士はインテリそのものに見え、一方、読者のほうが、知っていると夢にも思わなかったことを知りたがっているから」
「すばらしい。君はそれでジャーナリストだけでなく、教育者とも言える存在になる」と、新聞記者と対談している若者が笑う。
「もし、全ての新聞がそのように書けば、高等教育は不要になってしまうだろう」
新聞記者は満足してワインをちょっと飲む。「君がそう言うのならね。それで、エントロピー。で?」
「何が『で?』なの? それからどうなったかというと、プランクは研究を続けた。大学の理論物理の教授としてね。キール大学だったと思うが、これについては確認しておいて。物理化学における彼の業績について書くことが特に重要だ。そのあとで、彼はベルリンに移った。アメリカのコロンビア大学からも誘われたが、ベルリンで研究を続ける決心をした」