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悪魔の囁き

幸い怪我もかすり傷程度で済んだ。

その後の脳波の検査も異常なく、後遺症も無かった。運転していた若い若葉マークの女性と、その横に乗っていた母親と思われる女性。まだ免許を取って間もない若い女性は、いきなりの交通事故。それも人身事故。

この女性は事故を起こした時、青白い顔をして車から降りてきた。道に転がっているショーを見て顔面蒼白になり放心状態に陥っていた。救急車が来たのはコンビニの店長が機転を聞かせて一一九番に連絡してくれたお陰だ。

この時、私自身も混乱を起こしていてどうして良いかわからなくなって、ショーの名前を呼ぶことしかできなくなっていた。その後、この若いドライバーと母親は我が家に頻繁に訪問してはショーの様子を聞いていた。

明らかに、赤信号なのに道路を飛び出したショーが悪い、それを止めることができなかった私はもっと悪い。しかし、一つ間違えば、この女性とこの女性の家族も、我が家も奈落の底に突き落とされてしまう出来事であった。

神様は奈落の一歩手前で引き戻してくれた。それにしても、この若い女性ドライバーは未だ車を運転しているのだろうか?

それとも、この事故がトラウマになって車を運転していないのだろうか?

気になるところではある。交通事故に続いて、今度は失踪か? これまで様々な危機、困難を乗り越えてきた結果がこれか!

何処まで私達の人生を翻弄すれば気が済むのだ。神様。

そんな時、ふと悪魔に魅入られたような考えが浮かんでしまった。

『そうだ、このままショーが居なくなってしまったら。何処かに行ってしまったらこんな楽になることはない。ショーが居ないことは辛いことではあるが、これで普通の生活に戻れる。娘一人と夫婦で穏やかな日々が送れる。これで地獄のような日々から解放される』

冷静になった時点で考えれば恐ろしく人道に反した考えである。

ただ、この時、それほどに私達夫婦は疲れきっていたのである。後に妻に聞いた。妻もショーを捜しているとき一瞬、このような考えが脳裏をかすめたという。

ショーはもう、普通の子供のように小学校、中学校、高校、(大学)、会社、そして結婚、子供が産まれ家庭を持ち、子供達とともに幸せな生活を送ることは有り得ない。障害者という生き方を運命付けられているのだ。それが幸か不幸かは関係なく……。

この子には生きている意味はあるのだろうか? 何のために生きているのだろうか? 親が亡くなった後、この子はどうなるだろうか? 娘はどう思っているのだろうか?

この時、私達は障害者が通う養護学校の知識もなく、同じ障害を持った親同士の仲間が殆どいなかった。なので、毎日毎日が不安の中、霧の中を歩いているようなものであった。