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悪魔の囁き

私は炬燵こたつの中でテレビを点けるのでもなくボーっとしていた。夢を見ているような、眠っているような感覚であった。そんな中途半端な状態の中で、また嫌なことを思い出してしまった。

ある時耳を疑うような言葉を母親から言われた。

「そんなに大変ならショーをどこかの施設に預けちゃいなさいよ」

妻とはそんな話題になったことも幾度かあった。確かに障害をもった子供を預かってくれる公共の施設はあるようである。しかし、いつもそれは「子捨て」ではないかという結論になり絶対に禁句にしていた言葉であった。私達の手で育てようと夫婦で覚悟していた矢先のことであったこともあり、実の母親から言われるとは信じがたいことであった。もちろん母親は私達の苦労を見かねてそういったのかと思うのであるが……。

このことが起きたのは、兄が新築したのでそのお祝いを兼ねて妻、長女、ショーを連れて家族で遊びに行った時のこと。

それは楽しい思い出になるはずであったのだが……。

兄の家族は嫁さんとまだ幼い長男、長女、次女、そして母親と一緒に六人で同じ屋根の下で暮らしていた。丁度この家の長男がショーと同じ年である。子供達は家の中を跳ね回って遊んでいた。ただ、ショーだけは一人で遊んでいた。この時の行動が問題を起こしてしまうことになる。

ショーにとっては新築の家であるかどうかは分かるはずもなく、闇雲に家の中を走り回っていたと思ったら、突然裸足のまま外に飛び出してしまった。そしてまたヒーヒーと言いながらそのまま上がってくる。当然、床の上には泥の足跡が点々とする。そんなことを二、三回繰り返す。何度注意しても止めないのでしばらく様子をみて、後で床を拭こうかと思っていた。その時である、兄が突然大声を出した。

「なんとかしろよ、この子供を。新品の床が泥だらけになってしまうじゃないか」

気持ちよく酔っていた私にいきなり冷水を浴びせられた。なんだ、最初は事情が分かっているのでショーも連れておいでと気持ちよく言ってくれたではないか。だったら来るのではなかった。私も、恐らく妻も悔しい気持ちになったのではないかと思う。

このような気分ではもう飲み続けることはできない。私は床を拭くや帰りの支度をした。帰りがけに母親の部屋により挨拶した時の話が冒頭の話である。