解剖の結果、死因は頭部外傷、脳挫滅。死亡推定時刻は発見時の前日の午後八時ごろから一二時ごろ。
その時間帯における不審車両、人物の出入りがなかったか、近隣住民の聞き込みも初動捜査のポイントとなった。
この事務所に併設されたプラスチック成型工場も閉鎖状態。周りはのどかな田畑しかない。少し離れた所に農家が数軒あった。工場前の車一台がようやく通れるような小さな道路を二、三〇〇メートル行った先が国道一六八号線と交わっており、その角にコンビニが一軒あるだけだった。
農家の聞き込みで情報が一つあった。
事件当夜、老齢の農夫がいつものようにNHKの九時のニュースを見て、それが終わってしばらくした午後一〇時過ぎごろだった。飼っている柴犬がよく吠えるので様子を見に外に出た。
別に変わった様子もなく、近所迷惑だと思って犬を叱る。
それから玄関の戸を閉めようとした時だった。
事件の起きた会社の方から車が一台、走って行くのが見えた。速度も普通と変わりがなかったので、特に気にとめることもなく、玄関を閉めたという。
これが犯人の車なのか、まったく関係のない通りすがりの車だったのか不明だった。
コンビニの防犯カメラを調べた。夜間帯、コンビニ前の駐車場に出入りする車、人、国道一六八号線の車の行き来は被写体になっていたが、残念ながら現場に通じる道路は捉えられていなかった。
頼みの綱は、事件の動機関係、つまり怨恨の線での知人、取引関係をターゲットにした聞き込みだった。
会社は破産手続き中。取引先で多額の債権を持つ業者が回収できない腹いせに凶行に及んだ? 十分疑われる線だった。
宮本から出してもらった債権者リストをもとに金額の多い業者から当たることにした。
こういう事件では、初動捜査が肝心と言われる。
しかし、芳しい成果も出ないまま、二か月が過ぎた。
捜査の進展がない、膠着した状態になりつつある時だった。一人の若い男が所轄の平群署に出頭した。
「オレが殺りました」
これが高山敦史だった。
田所社長のS合成樹脂の会社の元従業員だった。
覚悟を決めて出頭したこともあり、素直に供述した。 高山は、当時三一歳。少年時代に万引き、オートバイ盗などの非行歴はいくつかあったが、すべて不処分で済んでいた。前科もなかった。
上背は一七〇センチを少し超えたぐらいで、どちらかというと、やせ形。色白で長髪。細目で表情があまり表に出ない暗いタイプの男だった。