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旅のよき友

25年ほども前でしょうか、何年振りかで家族揃って妻の郷里である佐渡に帰省しようとしたものの、事情で妻との休暇が1日ズレてしまい、私だけ後追いする形となりました。

しかも、出発当日には持病の偏頭痛が発症し、結局は2日遅れの出発を余儀なくされるという鈍い滑り出しでした。妻と子供達を見送った後、元々は尾瀬に寄り道してから佐渡入島するつもりでしたが、それが発作のお陰で体力も気力もすっかり萎えてしまいました。

ただ、佐渡へ直行も術ないと考え、せめて何処かの温泉へ1泊しようと思い立ちます。群馬県の谷川温泉や湯ノ小屋などの上越線から入れる温泉名も想起したものの、新潟県側の尾瀬の入山口の道すがらとなる大湯温泉に落ち着きました。

早朝6時に上野を発つ鈍行から何度か乗り継ぎ、小出からのバスでこれといったアテもなく大湯へと降り立ちます。

3、4年前の帰省の帰路に尾瀬に寄り道した際に通過した温泉地で、詰まるところは「品定め」といえるでしょうか。生ビール付きのブランチも済ませ、宿もみつかり、昼・夕・晩とお湯も堪能し、私に独り身の寂しさは微塵もありません。

バッグの中には3冊の本を忍ばせてあり、この旅の、車内、船内、待合室、妻の実家、あるいはそのすぐ目の前の海辺で、読書の機会をタップリと持とうという算段だったのです。

上越線の旅は、上野から新潟まで、2日がかりで全線を走破することになったし、妻の実家に着いた翌日には2冊目を読了してしまいました。

折しも新潟県は、特に本土側の上・中・下越地方に大雨・洪水警報が出るなどし、佐渡でも一時は雷鳴や激しい降雨に見舞われ、子供達も海に入るどころではなく、せめて私には望む通りの夏休みでした。

持病のことは、決して頭から離れません。ただ、のんびりとし、この年のテーマであるような読書も進み、美味い物や空気を体内に取り入れてそこそこ整然としたリズムで生活して、体力も気力も蘇り(尾瀬に行って行けないことはなかったか……)と思いました。

大湯温泉からの越後駒ヶ岳や、大佐渡山脈への山旅が早くも脳裏に形造られていることは、その何よりの証拠だったでしょう。ただひとつ、私には足りないものがありました。