美沙のインド行きが決まってから、職場の先輩、同僚ともに様々な反応を示した。生徒の方は、美沙のインド行きを聞きつけると
「片山先生、インド行くってほんと? コブラ使いとか見るの?」
「先生、あっちでも学校の先生やるの? インド人教えるの?」
「青年海外協力隊に入ったの? もう日本に帰ってこないんですか?」
など、支離滅裂な質問を投げかけてくる。
しかし無理もない、大人だって、いやこれから間もなく渡印しようとしている美沙自身でさえ、赴任先のインドを殆ど知らないのだから。
美沙は大人達のほうの、好奇心はさておいて、前途洋々好奇心旺盛な子供たちにはきちんと話をしておこうと、ホームルームの時間を使って自分の知っていること、考えていることを話し始めた。
「私は、この三月で中学校を退職し、主人が今度、インドのデリーにある日本人学校に赴任することになったので、一緒に現地に行きます。今のところ私の仕事は決まっていませんが、きっと何か役に立つことがあるように思います。皆の卒業まで一緒にいられなくて残念だけれど、私も新しい場所で頑張るので、皆にもこれから自分の人生をどう切り拓いていくか、考えながら進んでほしいと思っています」
突然、一番前の席に座っていた女生徒が泣き出した。
「先生なんで、学校やめるの?」
「えぇ、私も本当は全くこのようなことは想像していませんでした。でも主人と相談して(実は夫が勝手に決めたことだったが、ここは夫をたてておくことにした)、新しい挑戦をすることにし、主人が試験を受けました。私が受けたんだったら、辞めないでまたここに戻って教師になれるのだけれど、二人で受けちゃったら、派遣場所も違うしね」
と、ここは生徒も一緒にみんなで笑った。
「この制度は海外で暮らす日本人の子供たちの教育をなるべく日本と同じように与えられるように、考えられたものなの。もちろん日本人学校の無い国もあります。だから日本人学校のあるインドは、日本の企業や報道機関、また国同士の交渉をする外務省やそのほかの省庁の人たちが家族と共に現地に住み、その子供たちが学校で勉強しているわけです。皆も社会でいろいろな国の勉強をしているでしょうけど、インドのことはどれくらい知っているの?」
と、問いかけてみた。子供たちは、それぞれにインドに対する思いをめぐらしてみているようだ。