包丁を2、3㎝の間隔で平行に並べて、そのまま固定したような器具だった。この2枚の間隔は調節が可能で、かつ完全に平行になっている事が重要であると、記載されている。

ドーナツのような椎弓を上下に重ねた管、筒のような脊柱を、2本平行に並べた包丁で上から下まで切って、その間の細長い部分を取り除く訳だ。慎重に双鋸を押したり引いたりして、深さを確かめては、再び押したり引いたりした。

やがていい感じで2本の切れ目が入り、切れ目にはさまれた部分を持ち上げると、1本の長い棒として外れた。果たして、脊髄神経が見えた。神経は圧迫に対し、非常に弱い。

椎体がヘルニアを起こし、脊髄神経を圧迫してしびれや痛み、麻痺が出たりする。眼圧が視神経を圧迫して起こるのが緑内障だ。脳出血で、血腫となった塊で圧迫されると脳神経が障害される。

医学部に入学する前の、一般的な医学知識しか無かった頃の自分と比べて、より専門的な知識が身についてゆくのは嬉しい事だ。

しかしその反面、人間の限界についても納得させられてしまう。脊髄神経は、やや黄色を帯びていた。やや横長に丸く太い、薄黄色いコードという感じだったが、馬尾ばびという部分に驚かされた。

それは、腰部の下あたりから始まり、それまで1本の棒のようであった神経が、たくさんに枝分かれして、ホウキかハタキ、確かに馬のしっぽを思わせる状態になっている。

万物の霊長たる人間の神経が、このようなしっぽのような形で内在している事は、何か気味悪い思いがした。こんな事は知らない方が良かったと思ったが、むしろ本番はこれからなのだった。