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再会

私はサンドウィッチのひとつに噛みついた。それはチキンサンドで、一緒に挟まれているパプリカとチーズに幾らか相殺そうさいされてはいるものの、あの懐かしい、子どものころここで過ごした日々を一瞬にして思い出させてくれるピリッとした辛みが私にはすぐにわかった。

それがカイエンペッパーと呼ばれる香辛料であることに確信が得られるまでしばらくかかったが、そのあいだ、ほんの数秒間、記憶の彼方から浮かび上がってくる顔があった。その顔は、余りに急スピードで浮上してきて、しかも懐かしさに満ちて親し気であったために、その人の名前を呼び起こすためには更に数秒を要したほどだった。

笑い声に包まれた、テーブルの奥。優しい丸い顔をした、中年の女性。いや、彼女はただの女性ではない。母親だ。……誰かの、私にとって大切な意味を成すはずの誰かの母親。よく一緒に食卓を囲んだ光景が少しずつ、寄せては返す波のように甦ってくる。

「マラータ!」

私は突然夢から覚めた人のように、大きな声で叫んでしまった。その人の名前。弾かれるように、銃口から発射される銃弾のように飛び出してきた名前。

すると、私の周辺の常連客たちが一斉に私を見た。

「あんた、マラータを知ってるのかい?」

驚いたように目を丸くして、ひとりの老人が言った。

「あのマラータを」

老人の妻らしい優しそうな顔をした老婆が、天を仰いで声を上げた。