スルガザウルスの全身から　汗や涙のようなものが一斉に噴(ふ)き出(だ)し　霧(きり)のようになって空中(くうちゅう)に浮かび上がり　風に吹(ふ)き寄(よ)せられて麓一帯に大雨となって降(ふ)り注(そそ)ぎ　あっという間に全(すべての火を消してしまいました

この翌日(よくじつ)に起こったのが有名な富士川の戦(たたか)いです　この頃(ころ)の平氏(へいし)は戦(いくさ)の前に　自分たちの視界(しかい)を遮(さえぎ)るような家々や草木(くさき)を焼(や)き尽(つ)くしてしまうことを　常套(じょうとう)手段(しゅだん)としていましたが（実際(じっさい)に京都(きょうと)では重要(じゅうよう)な建物(たてもの)まで焼いてしまっています）　そのための火が一瞬(いっしゅん)にして消えてしまったのです　再び火をつけることもできません　そのことに不気味(ぶきみ)で不吉(ふきつ)なものを感(かん)じ　その不安感がさらに募(つの)って恐怖心へと変わったため　その翌日　水鳥(みずどり)の飛び立つ羽音(はおと)を聞いて敵(てき)の襲来(しゅうらい)と間違(まちが)え　戦わずに逃(に)げ去(さ)ってしまったのです

戦前(いくさまえ)のこの時は　家々が焼かれ始めたばかりだったので　すぐに消すことができて良かったのですが　その後　駿府(すんぷ)の城下(じょうか)が大火事になった時には　スルガザウルスの作り出す程度(ていど)の雨水(あまみず)では全く足(た)らず　とうとう駿府(すんぷ)城(じょう)は焼け落ちてしまいました

スルガザウルスは　自分と似(に)た名前のこのお城を友達のように感じて　日々眺めて暮(く)らしておりましたので　それがなくなってしまったことを　心から悲しく思いました

残念なことにこの時は　この城を隠居(いんきょ)城(じょう)にしていた家康(いえやす)公(こう)も　すでに亡(な)くなっていましたので　この後　天守閣(てんしゅかく)のある新しい駿府城が造(つく)られることはありませんでした

スルガザウルスが海の上で立ち上がって遠くを眺めたりする時や全身に力を込(こ)めたりする時には　波(なみ)の上に立たなくてはなりません　水中に身体を置(お)くと潮の流れの影響でかえって不安定になり　その姿勢(しせい)をしっかりと維持(いじ)できないからです　こんな時スルガザウルスは鳴門(なると)の渦潮(うずしお)の逆(ぎゃく)　つまり彼の足下で渦(うず)の中心に向かう流れではなく　渦の外に向かう流れを作り出すのです　渦の中心に向かう流れは　海面下(かいめんか)に潜(もぐ)る力を生み出しますが　渦の外側に向かう流れは　浮かび上がる力を作り出すからです