真相­―ヤメ検が暴く

­あの電話は、いったい何だったんだろうか?

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­丹前健(たけし)は、今朝も、自宅の明石からJR神戸線を使って神戸三宮の事務所に向かいながら、三日­前に一人の男からかかってきた電話のことを考えていた。

­朝といっても、JR三ノ宮駅から事務所に向かう道々の飲食店の前は、そろそろランチメニュー­を掲げた看板も並びだしている時間帯だ。とっくに一〇時を回っている。

自ずと急ぎ足になっている­ことに気付く。何も急ぐ用はないのにと、皮肉の言葉が頭をよぎる。­道々の街路樹もすっかり葉を落としている。路上の落ち葉がカサカサと冷たい風に飛ばされて足元­を転がる。

もう一二月、初冬に差し掛かっていた。ビルの谷間を吹き抜ける冷たい風に、丹前は、思­わずコートの襟を立てて首をすぼめた。

­丹前は、平成二七年七月、二九年余りにわたって務めた検事を退官した。定年まであと一年半ほど残っていたが、体力と気力があるうちに、元々の志望だった弁護士をしよ­うと思ってのことだった。­

東京霞が関の法務省中央合同庁舎一九階の最高検察庁ナンバー2の次長室。退職の意向を告げたと­き、次長が神妙な顔つきで念押しした。­

「後悔はしませんか?」­

即座に答える。

­「はい、後悔することはありません」

­次長の顔を見据えながらきっぱりと答えた。­丹前が検事時代、何度も経験してきた場面。被疑者が取調べで検事から

「事実に間違いありません­か?」

と問われて、

「はい、間違いありません」

と答える心境と重ね合わせる。潔いものだった。と­いうより、そう気張って見せたというのが本音だろうか。

­丹前は、日本弁護士連合会に弁護士登録された平成二七年九月一日から、神戸のJR三ノ宮駅か­ら徒歩五、六分ほどのビルに小さな一室を借りて弁護士事務所を開いた。