簡単な話

翌日、土曜日の夕方の食事時、この日は父がゴルフに出かけていて帰りが少し遅くなるようで、妹も友人と外出していて、母親と二人きりの食事となった。北川家では決して珍しいことではなく、呉服店の店舗は土・日は夕方六時には閉めている。

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元町商店街は休日は若い人が多く、呉服店の客層ではないので以前からそうしていた。休日は、美代子は食事の手伝いをすることも多く、キッチンで母親と二人立っておしゃべりしながら準備をすることに何の抵抗も感じてなく、却って楽しい時間に思っていた。

母と二人テーブルに向かい合って座り、その日のたわいない出来事を話しながら、美代子はおもむろに

「お母さんに聞いてもらいたいことがあるの」

「どうしたの、難しい話は嫌よ」

「簡単な話」

と言い、先日の健吾との一件を話し始めた。

「以前会社の職場の人とお付き合いしていると言ったでしょう」

「うん、もう二年も前の話ね」

「話が壊れたの、だから無かったことにして忘れて」

「どうしたの、急に、何があったの?」

「彼はマザコンで、重症なの、私は付いていけない」

と言いながら、〝のどぐろ〞の一件を一例として話した。

「今時、いい男がまだそんなことをしているの、あきれるわね、それで……」

「彼の母親が過剰なくらいまで彼に思い入れがあるみたいで、何でもお節介をやくようで母親に対して〝イエスマン〞なの、だから結婚についても恋愛を認めない考えで息子の相手は親が見つけるというらしく、彼は何一つ自分の意見が言えない人なの」

「あきれたね、でもこれまでの二年間は無駄なようでいい勉強になったと思うしかないね、きっとその母親も昔若い頃に恋愛に苦い経験があったのよ」

「確かに、相手の人を好きになってしまうと負の部分を敢えて見ないようにしているところがあるからね、母親は自分の体験から学んだのかもしれないね」