曼陀羅寺へ
曼陀羅寺へは湖沼の脇のあぜ道を通って行かねばならない
丈の低い湿原植物の群生が道を覆い隠すように拡がっている
湖沼にはぼんやりと霧が立ち込め向こう岸は見えない
風はなく水面はほとんど動かない
誰もいないあぜ道をただ与えられた義務を遂行するようにたんたんと歩く
湖沼を左手に見ながら続いていくその道は少し左の方に曲がっている
一つの疑問は何故自分は曼陀羅寺へ向かっているのかという点だ
しかし人というものはしばしば自分の行動の説明ができないのではないか
かなり歩いたところで私はもう一つの疑問を持つに至った
曼陀羅寺はどこにあるのか
それにいつまで歩き続けなければならないのか
よく見ればここは先ほど通った場所に思える
どうやら私は湖沼を一周しただけのようだ
ため息ふと岸辺に目をやると一人の翁が釣り糸を垂らしている
姿が見えた灰色の粗末な支那服と支那帽ヌマガヤの草に腰を下ろし背中を丸めて縮こまっているうしろ姿
すみません
曼陀羅寺は何処ですか
老人は振り向くと無表情のまま私を見つめ下を指さした
そこには岸から湖沼の中心に向かってのびる一本の細い橋があった
霧がかかっていたために気付かなかったのだそうか曼陀羅寺は沼の中の小島に建てられているのか
私は無愛想な老人に軽く会釈しながら橋を渡り始めた