「いらっしゃい」
康代がそう言ってカウンターの客の所に遣って来た。空になり掛けたグラスに焼酎を注ぎ、アイスペールから角氷を入れる。客は美紀に話した内容を再び康代に初めから話し始めた。
客は二回も話を聞いて貰ったことで胸のつかえが下りたのかそのうち康代の着ている服の話になった。
「康代ちゃん、ここじゃいつもドレスだけど、一度康代ちゃんの着物姿も見てみたいな」
「あら、買って下さるの?」
「買ってやってもいいけど、俺はしつこいぜ」
客がニヤリといやらしく笑った。
「いやね、話をすぐそっちの方にもっていくんだから」
康代はそう言いながらやんわりとあらぬ方向へ話が進むことを拒んだ。誰が着物一枚ぐらいでお前のオモチャになどなるものか、あほうが。そう思いながら康代は客の奢りのビールを一気に飲み干した。
客の相手をするホステスの顔に多少相手を小馬鹿にした表情が表れても相手は思考力の鈍った酔い客だ。心の内まで読まれる心配は無いだろうと美紀は思っている。