武蔵警察署 地域課 石黒

「転送します」

という母親に

「いや、これ写しますから」

と、スマホの写真を、さらに石黒のスマホで写した。

「会社の人から、山での特徴も教えてもらいました。それから、いつもメガネを作っているメガネ屋さんから、最近のメガネを教えてもらいました」

「タバコはピース。吸い殻は捨てない。メガネは金属のシルバー(黒っぽい)。青の襟付きシャツの可能性が高い。ベージュ(茶)の帽子かも? 黒いリュックに間違いない(家に赤いリュックがあったので)。ズボンは色がわからないが、黄土色か黒の可能性がある」

石黒はとりあえず、母親がスマホのメモ帳に書いた特徴も、自分のスマホで写した。

「ところで」

坂崎に言われていたことがあった。

「チラシを作って登山客の方に配りたいんですが、これらの中から使ってもいいですか」

「大丈夫です。会社の方から送っていただいた写真は、誰かと一緒の写真はすべて私がトリミングしました。本人しか写ってないようにしたので、どれを使っていただいても大丈夫です」

聞いてない。この母親、五十代か? 六十には見えないが、スマホで写真を加工できると自慢したいのか。どうでもいい。

「わかりました。早速手配します」

「よろしくお願いします」

母親は深々と頭を下げた。

「あ、さきほど会社の人が……」

「はい。毘紐天でお会いしました。たまになんですが、会社の人と何人かでパーティーを組んで行っていたことがあったんです。先週の火曜日も会社の人と行っていて、今日来てくださったうちのおひとりが、ちょうど一緒に行った方で、詳しく教えてくださいました」

「さっきの会社の人が」

「いえ、会社の方にお会いする前に、私が息子の会社に電話していたんです。写真や特徴は、今、会社にいる別の方が、いろいろお声がけくださって、写真を集めて送ってくださったんです」

話、長いな。

「わかりました。参考にしますので」

「ありがとうございます」

結局、その日も登山者はみつからなかった。当初の予定では捜索二日目で登山道をすべて歩いたら、捜索を打ち切る予定だった。しかし、当初の予定より時間がかかり、全部を歩ききれなかった。そのため、捜索は三日目金曜日まで延びることとなった。

十五時半、天候悪化により本日の捜索はひとまず打ち切り。

「明日は人数が減ります。天気は良さそうなので、ヘリコプターでの捜索が主になる予定です」

家族にそう告げると、石黒はやっと帰れるとほっとした。