人生の晩期に適した住まいとは

特に高級志向の施設は豪華なホテルを想起させ、短期住まいは満足度が高いかもしれませんが、何か月も住み続けて親しみが湧くかどうか、自分には疑問でした。多分、自分ならすぐ飽きると思いました。

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なぜなら、日本はもとより世界中を旅し、安宿から高級ホテルまで滞在した経験上、どんな高級ホテルでも飽きる。逆に安宿でも主人や旅人、地域住民との交流ができると、高級ホテルに無い刺激的な楽しさがあります。

そのような経験から、この住処は親しみが湧くよう北海道らしい、昭和30年代から40年代の少しノスタルジーを感じるような建物を目指しました。そして、人的交流が生まれやすい設計を模索しました。

 

そんな目論見で有島武郎旧邸に少し似た外観の家が出来上がりました。内装は心理的に落ち着くパステルグリーンを1階に、余病の多い方を想定した2階は気持ちの明るくなるパステルピンクを用いた壁紙にし、家庭的な雰囲気作りを目指しました。

これらの色調はスウェーデンの高齢者住宅やお気に入りの古宿、さらに色調の心理学からヒントを得たものです。そして正面に半円形の飾り窓を付けるよう注文しました。

すると、直前になって施設の建築法上できないとメーカーさんが言いはじめ、ニセ扉にしてはどうかと提案されました。せっかくの意気込みで作ったマンサード型の他に類を見ない家(北海道の農村でよく見る腰折れ三角屋根の家)なのに、安っぽいニセ扉を付けるなんて絶対に許せませんでした。

そこで、東日本大震災の土田英順さん(元札響首席チェリスト)のチャリティーコンサートで知り合った江別市を拠点とする芸術家、原田ミドーさんに急遽モザイクタイルアートをお願いし、半円形の窓になるはずだったところにはめ込みました。

左に太陽、真ん中に空飛ぶトンボ、右に月、まるで人生の時の流れを思わせるようで素晴らしい作品になりました。こうした住宅の形作りは大成功でした。住宅を見学に来た方に私たちの意気込みと住処のコンセプトが直感で伝わるものだと、のちに気づいたからです。