正統勢力と準拠勢力は、意外と使われています。専門勢力は相手が専門的な知識や技術を持っていると考えている場合です。保有資格やPhDなどの肩書、そして実績がある人物からの意見やアドバイスがこれにあたります。

最後に挙げた情報勢力というのは少し特殊です。自分たちの知識や情報の伝達が集団の外にいる相手に影響を及ぼすというもので、SNSにおけるインフルエンサーの影響力などが挙げられるでしょう。

さて、もし自分たちに圧倒的な競争力のあるサービスや商品があれば、利益を与えることで相手を動かす報酬勢力だけで、プロポーザルの目的を達成することができるでしょう。この場合のプレゼンテーションは極めてシンプルなものになるはずです。

しかし、競争下のプロポーザルでは、圧倒的優位といえども報酬勢力以外のさまざまな手法を検討し、プレゼンテーションを構築するべきです。

少し考えればわかると思いますが、報酬勢力、強制勢力以外の勢力は「取引」の有利不利との直接的な因果関係が不明です。これは、競争上優位な「報酬」の提示が難しい時に使いやすいということでもありますし、競争上優位な「報酬」をひっくり返す可能性があるということでもあります。

もし、絶対的に有利な状況を競合にひっくり返されることがあったとしたら、それは「報酬」以外の勢力に相手が勝っていたということになります。

私は独身時代に、父から結婚についてこう諭されました。

「10のうち9が良くてもダメな1つが原因でダメになることもある。10のうち9がダメでも残りの1が決め手になって結婚するのはよくあることだ」

プロポーザルの勝敗とはこういうものなのだと思います。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という野村克也監督の有名な言葉があります。

プロポーザルにおいては、「不思議の負けなし」とは、ダメな1点となっていた「何らかの劣っていた勢力」が必ずあり、「不思議の勝ちあり」とは、決め手となった1点が思わぬところにあると私は解釈しています。