黙って聞いていた美代子は
「お母さんに賛成していただかないと一歩も前に進まないよね、私はもっとあなたが毅然とした態度で両親に接してくれているとばかり思っていたから、今日、気が付いたことがあった。
〝のどぐろ〞の魚の骨の事、目の前で現実を見せられると私はショックだった。母親離れしていないことがはっきりしたから」
ここまで言うと、美代子はこれ以上小言を言っても無駄という思いから、黙ってしまった。二人の間に気まずい空気が漂った頃、次の料理が運ばれてきて少しは救われた気持ちになった。
美代子は心の中で気持ちの整理がついた。だから次の料理が運ばれてきたのを機に話題を切り替えて、世間話をして今までの深刻な表情から少し演技気味に明るく振る舞った。
反対に健吾は申し訳なさそうに少し目線を下に向けて美代子の話を聞いていた。このような時、大人の世界では結末が見えているので余計な言葉は必要としなかった。
その方がお互い傷をつけないで済むから、最後の料理で白いご飯と味噌汁そして香の物が出た後、デザートに運ばれてきたレモンのシャーベットが、なんとなく苦い話で口の中がモヤモヤしていたのを洗い流してくれたようだった。